アデレード大学DNA考古学センターのジェレミー・オースティン博士は、「タスマニアンタイガーの探索に注がれる資金と労力を他の保護活動にまわすべき」という見解を持っている。
タスマニアンタイガー(Thylacine)は、ホバート動物園で最後の個体が死亡してから、*神秘動物学者たちの想像力を捕らえて離さない。(ホバード動物園はタスマニアンタイガーが死んだ翌年に閉園。)1930年からタスマニア全土で、2005年にドイツ人観光客が撮影した写真(決定的ものではない)を含め、公式には発表されていない目撃情報がいくつもある。
しかし、オースティン博士の研究所で、タスマニアンタイガーのものと思われた膨大な数の糞が調査されてきたが、そのほとんどがタスマニアンデビルの物と確認された。この事実は、オースティン博士に言わせれば、タスマニアンタイガーの生息を立証する望みは皆無かそれに近いことを意味する。
![]() タスマニアンタイガーの現存する写真:1906年、ワシントン国立動物園 (スミソニアン研究所E・Jケラー撮影) |
タスマニア発行の新聞「The Mercury」によると、オースティン博士は、タスマニアンタイガーのクローンについても疑問視している。保存されているタスマニアンタイガーの遺伝子断片は、完全なゲノムを作製するには破損が激しいのだ。さらに、仮にタスマニアンタイガーがクローン再生できたとしても、一個体しか生み出すができないため、そのクローンは生殖することができない。
何百万ドルもの大金がタスマニアンタイガーのクローン再生に費やされるより、タスマニアの固有種を含め、生存が脅かされている種のために使われるほうが好ましいのではないか、とオースティン博士は言う。
かつて世界最大の有袋類肉食獣だったタスマニアンタイガーは、人間による迫害、病気、そして外来種であるディンゴとの生存争いによって絶滅へ追いやられてしまった可能性が高い。
*神秘動物学:未知動物学ともいう。存在の可能性の値を求める研究。
校正 若森 尚子