注:映画「アバター」のエンディングがこの記事の中で明かされます。)
ジェームスキャメロン監督の最新映画、「アバター」では、 衛星パントラに住む先住民が、 パンドラの資源を狙う侵略者たちと、故郷の森を守るために戦う。パンドラの資源で儲けようと開発を企む企業は、「警備」のために元海軍兵からなる軍隊を雇い、利益のためなら民族大虐殺も厭わない。
6本足のサイが走り回り、巨大なトカゲが飛び回るこの架空の星を舞台に繰り広げられる奮闘は、まさに「遠い星」の話に聞こえるかもしれないが、利益を求める企業と先住民との、資源・土地をめぐる衝突は、決してSFの世界だけの話ではない。
実際に、世界中の先住民は、何十年にも渡って鉱物・木材・石油・天然ガスなどの資源の搾取を最優先する大企業との衝突を強いられている。映画「アバター」に登場する会社のように、これらの大企業はたいてい政府の支援を受けており、時には元軍隊や地方警官等の「警備」力を使う権利も与えられている。
ただ、先住民の人々が侵略者を相手に勝利を収める映画のストーリーとは違って、現実の世界における先住民の戦いが、公正な結果で終わることは、滅多にない。ペルーでも、マレーシアでも、エクアドルでも、企業の搾取と戦う先住民の苦しみと闘いは、今日も続いている。
槍 VS 銃
映画「アバター」で、ナヴィ族と呼ばれる先住民は、先端に毒を仕込んだ矢を使って、銃・ガス・爆発物で武装した人間の侵略に立ち向かう。これは正に、「映画のような現実」だ。今年6月(2009年:訳注)にペルーで起こった先住民と警官の衝突では、政府への抗議のために集まった先住民達は槍を持つか、あるいは何も武器を持たない者がほとんどだったのに対し、警官は厳重に武装していた。
ブラジル、カヤポ族のシャーマン |
これは、Alan Garcia 大統領率いるペルー政府により、海外企業が資源搾取のために先住民族の土地を開発することを奨励する100余りの新しい規定が定められたことに対する抗議活動だった。
武器を交えたこの衝突により、23人の警官と、少なくとも10人の先住民族の抗議参加者の命が犠牲になった。正式に発表されたこれらの死者の数について、後に先住民側は、政府が先住民の犠牲を少なく見せるために死体を川に捨てて隠蔽した、と主張している。
事実として分かっているのは、82人の抗議者が銃弾を受け、合計120人の抗議者が負傷したということだ。催眠ガスの他に、機関銃も使用された(写真参考)という目撃証言もある。
ペルー政府の警備隊がプロテストに参加した先住民を銃撃している。 (Photo:2009年、Marijke Deleu) |
この残酷な衝突からわずか数週間後、テキサス州に拠点を置くHunt Oilは、ペルー政府から全面的支援を受け、ヘリコプターや地震調査用の大きな機械を駆使し、Amarakaeri Communal Reserve(アマラカエリ共同保護区)に侵入した。これは、映画「アバター」の中で武装した企業の戦艦がナヴィ族の土地に侵入するシーンを思わせる。地震調査のみで、300マイル(483km)もの実験用の道路、1万2千以上の爆発物、そして100ヶ所ものヘリコプター着陸用施設が、それ以前はほとんど開発の手が入らず、知られていなかったアマゾン熱帯雨林の奥地に作られた。
先住民族の土地を守るための保護区のはずだが、このままでは石油開発のために切り開かれてしまうかもしれない。保護区に住む先住民の人々によると、 Hunt Oil の進出に関して、彼らの同意を得るための然るべき手続きは全く無かったということだ。
先住民による抗議の原因となった新しい規定の多くは、その後憲法違反と判断され、ガルシア大統領はその内の二つを撤回した。しかしガルシア大統領は、 Hunt Oilの例が示すように、アマゾン地域の先住民族の土地における石油、天然ガス開発を進める意向を明らかにしている。
開発対象となる地域の中には、外界との接点を持たず、伝統的な生活を続けているアマゾン先住民族の土地も含まれる。これらの部族の存在は、上空からの写真に捉えられた槍を持った姿により証明されているが、ガルシア大統領は何度もこの証拠を疑問視する発言をしてきた。抗議の対象となっている契約は、合衆国、カナダが共に合意している自由貿易協定の一部である。
ペルーとの国境に近いブラジルのアクラ州にある保護区域、Terra Indigena Kampa e Isolados do Enviraで撮影された、外界との接点を持たない先住民族の写真。(Photo:© Gleison Miranda/FUNAI) 2008年5月に NGOサバイバルインターナショナルによって発表されたこれらの写真は大きな反響を呼んだ。(Photo:© Gleison Miranda/FUNAI) |
映画「アバター」の中で、惑星侵略を率いる企業の経営者はナヴィ族を「青い猿」、「野蛮な者たち」と差別的にあしらい、企業関係者も企業に雇われた兵士たちも、ナヴィ族を人間に及ばない生物として捉えている。
現実世界でも、ペルーのガシア大統領は、先住民の人々を、「混乱した野蛮人」「二等市民」「罪人」「無能」などと呼ぶだけではなく 、ペルーの悪名高いテロリストグループ「 Shining Path」と同等に扱うような発言までもしている。政府の許可を受けた海外企業に侵略されるペルーの先住民族の苦悩に終わりが見えないのも無理は無い。
ボルネオでの数十年に渡る抑圧:暴力、レイプ、殺人
世界の反対側、ボルネオでも先住民族が彼らの土地を企業の搾取から救うために戦っている。マレーシアのボルネオ島に住むペナン族の人々は、木材産業のブルドーザーや電動のこぎりの進出により、彼らの文化にとって大切なお墓のための敷地も含む、先祖代々引き継がれた土地を失うだけでなく、暴力、レイプ、そして殺人までもの被害を被ってきた。
2006年3月、マレーシアの企業 Interhill のブルドーザーがペナンの中央バラム地区の Ba Abang 村に立ち入った。 |