日本に50頭あまりしか生息していないと言われるジュゴンの日本最後の生息地が、危機にさらされている。
辺野古の海 (写真提供:ジュゴン保護キャンペーンセンター) |
ジュゴンが生息する沖縄県東部沿岸、辺野古(へのこ)の大浦湾地域は、たくさんの種類の生物種が生息しており、環境省が選定した日本の重要湿地のひとつである。
しかし、辺野古は米軍普天間飛行場の代替施設建設地の候補地になっている。日本の新政権である鳩山内閣は、現在候補地の再検討を行っているが、いまだ辺野古は選択肢に含まれている。建設のための埋め立てが行われれば、大浦湾の潮流が変わり、赤土やヘドロで海草やサンゴなどの生態系が大きく破壊されることは避けられないであろう。
普天間基地問題
1996年、日本、アメリカ両政府は普天間基地の全面返還を合意。 しかし、今だその返還は果たされていない。その理由として、アメリカの新基地建設の要求、日本政府がそれを容認したことがあげられる。
その背景には新基地建設に絡み1兆円ともいわれる建設事業の利権があると言われる。
辺野古の海とキャンプシュワブ (写真提供:ジュゴン保護キャンペーンセンター) |
なぜジュゴンを守る必要があるのか
ジュゴンは現在、2006~2007年に公表された環境省レッドリストで、絶滅危惧IA類(ごく近い将来に野生絶滅の危険性が極めて高い種)に指定されている。
ジュゴンは妊娠可能年齢に達するのに10年近く、または10年以上かかるといわれ、繁殖率がとても低い。一生のうち5,6頭しか出産しない。食性も極端であり、決まった海草以外食べないため、ジュゴンの食べ物である藻場が失われた地域ではジュゴンは絶滅すると言われる。極めて繊細な動物のため、生息数が激減した場合その回復にはとても時間を要する。
ジュゴン、鳥羽水族館 (写真提供:ジュゴン保護キャンペーンセンター) |
ジュゴンを守ることはジュゴンの生息地に生息する他の生物種の保全にもつながる。ジュゴンの主食であるアマモは、潮流を和らげ、海洋生物に酸素を供給する。アマモの群集は小さな魚やカニ、エビなどにとって外敵からの隠れ場であり、産卵場所となる。
さらに、2007年9月に行われた調査では、米軍新基地予定地からわずか4kmのところに国内最大級のアオサンゴの群落、40種近いエビ、カニ類の新種が発見された。大浦湾の藻場は沖縄本島最大であり、その地に埋め立てを行うと、このような多くの生物の生息地を破壊することとなる。将来、ジュゴンへの被害だけでなく漁業にも多大な影響を与えることとなるだろう。
基地の建設は藻場の破壊だけではない
ジュゴンを保全するには、藻場の確保だけでなく、昼間の休息場所、夜間の摂食場所、この両者をつなぐ回廊が必要となる。ジュゴンの保全を考慮したうえの政府基地建設工法では、藻場の確保のみ含まれ、ジュゴンにとって藻場以外の必要な場所は考慮されていない。基地が建設されれば、ジュゴンの日周移動は保障されないであろう。
ジュゴン保全に対し日本のこれまでの姿勢
ジュゴンの生息地の国々の中で、先進国は日本とオーストラリアだけである。
オーストラリアではいち早くジュゴンの生息地が保護区として保全されているが、日本では国の天然記念動物に指定するのみで、保護区は今だ設置されていない。
日本はIUCN(国際自然保護連合)が採択したジュゴンの保護を求める勧告案を履行するべき
IUCNはこれまで、日本の環境NGOが提出した沖縄のジュゴン保護を求める勧告案を3度も採択しており、これは異例のことである。勧告案は過去に提出されたものと同じ内容の勧告案を受理しないこととなっているが、過去2度の採択後、日米両政府は勧告を履行していないとIUCNが判断したため、3度目の採択にいたった。しかし、この採択を日本政府は棄権。事前に行なわれたコンタクト・グループ・ミーティングの中で、日本政府は充分な環境アセスメントとジュゴンの保全のための施策を行なっていると主張した。(Japan Alternative News for Justice and Newcultures ジュゴン保護キャンペーンセンター(SDCC)の吉川秀樹氏へのインタビュー記事参照)
しかし、政府が2009年4月に提出した環境アセスメント準備書に対して、日本自然保護協会(NACSJ)は、調査は科学性を欠き辺野古の埋めたてはシュゴンの生息環境を著しく破壊すると指摘した。そして鳩山首相、オバマ大統領に、辺野古への普天間代替施設建設の撤回を求めている。
今年、国際生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の議長国となった日本。自国の絶滅危惧種を議長国としてどう保全していくのか、関心が高まる。
署名のお願い
ジュゴン保護キャンペーンセンター(SDCC)では、2008年に行われたIUCN(国際自然保護連合)の第4回世界自然保護会議で採択された「2010年国連国際生物多様性年におけるジュゴン保護の推進」決議の履行を求め、現在、鳩山首相宛に新署名を開始しています。
ジュゴン保護キャンペーンセンターによるアメリカ領事館(大阪)への要請行動(写真提供:ジュゴン保護キャンペーンセンター) |
- ジュゴン保護キャンペーンセンター(SDCC)署名活動ページ
参考資料
・IUCN(国際自然保護連合)
・環境省レッドリスト