メキシコ湾の原油流出事故が世界的な関心を呼ぶにつれ、多くの人々が、アメリカ政府の政策の是非にとどまらず、この世界が化石燃料に依存しているという事実そのものについて真剣に考え始めている。ところが、化石燃料を用いる大規模なエネルギー事業計画は現在もなお着々と進行している。その一つがボルネオ島マレーシア領のサバ州における、300メガワット規模の石炭火力発電所の建設計画である。これに地元住民は激しく反対しており、予定地はすでに2度の変更を余儀なくされた。しかし、現在の計画で発電所の建設予定地となっているのは、下の掲載写真に見るとおり自然のままの豊かな浜辺である。この浜辺は、生物多様性の高さでは世界屈指の海洋環境として知られるコーラルトライアングルに面している。しかも、発電所の送電線は、オランウータンやボルネオサイ等、多数の絶滅危惧種の生息地である近隣の原生雨林を貫通することが予想されている。
この発電所計画に反対するNGOグループ、グリーンサーフ(Green SURF=サバの未来にもう一度パワーを取り戻す連合)は、発電所の建設で多数の環境問題が生じるだろうと警告している。例えば、塩素や硫酸の海洋流出、酸性雨の原因となる二酸化硫黄の排出、熱汚染、さらに送電線の新設やインフラ整備、ボルネオ島南部産の石炭の搬送に必要な開発といった問題である。一方、グリーンサーフが最近実施したエネルギー監査では、サバ州について、パーム油のバイオ燃料、太陽光、水力といった多様な非化石燃料をもとにした、コスト競争力のある発電所をもつことが十分可能だと指摘されている。
この問題に関するご意見をグリーンサーフ(Green SURF) へお寄せください。他にも、ポストカード・キャンペーン(post card campaign) 、署名運動(petition), 、フェイスブック・グループ(Facebook group) など、様々なキャンペーン活動が実施されています。また詳細情報は、ソースウォッチ(Source Watch)でもご覧いただけます。
写真上は石炭火力発電所の建設予定地。コーラルトライアングルを臨む、手付かずの自然のビーチである。500種以上のサンゴと3,000種以上の魚が生息するコーラルトライアングルは、世界屈指の生物多様性を誇る海域である。マレーシア政府は昨年、コーラルトライアングルの保護を誓約する協定に署名している。(写真:Wong Tack)
発電所建設予定地に近い海岸の原生林。環境問題専門家は、発電所が排出する硫黄は、こうした熱帯雨林を損なう酸性雨の原因になると危惧している。(写真:Cede Prudente)
建設予定地の南部に位置するセンポルーナの沿岸の村々では、人々は良質の漁場を頼りに生活している。発電所が建設されれば塩素・硫酸廃棄物で富栄養化が進み、アオコが増殖して、魚介類が大量に死滅するおそれがあると環境問題専門家は指摘する。(写真:Helen Brunt)
サバ州沿岸海域の多様性豊かな海洋生物は、地元民の生活を支えるだけでなく、観光資源としても世界的に有名である。サバ州は国際的に「緑の州」とも呼ばれている。原生雨林が近接する手付かずのビーチに発電所が建設されれば、そうしたイメージに大きな傷がつくと運動家たちは懸念する。また環境問題専門家は、発電所の出す熱により近海のサンゴ礁が損なわれる可能性があると指摘している。(写真:Borneo Dream)
自然のままの島々と澄み切った海からなるトゥン・サカラン・マリーンパーク。センポルーナ沖のこの海洋公園は、発電所建設予定地からは100キロと離れていない。(写真:Yee I-Lann)
ボルネオ島の秘宝の一つ、タビン野生生物保護区の原生雨林は、驚くほどの生物多様性に富み絶滅危惧種も数多く生息する。発電所の送電線はこの保護区のすぐ近くに設置される可能性がある。しかも、酸性雨が繊細な自然環境を汚染するおそれもある。(写真:Cede Prudente)
タビン野生保護区には、IUCNのレッドリストで「絶滅寸前」と分類されているスマトラサイの希少な群れが生息している。世界で最小種のこのサイは、現在わずか250頭しか残っていない。(写真:Cede Prudente)
タビン野生保護区は、IUCNのレッドリストで「絶滅危機」と分類されるボルネオオランウータンの生息地でもある。サバ州のオランウータンの数は過去数十年の間に50~90パーセント減少した。生息地の消失がその主な原因である。(写真:Jollence Lee)
世界で一番小さい象、ボルネオゾウに目をとめるタビン野生保護区のツーリスト。この象は、アジアゾウの亜種に分類されるユニークな動物である。(写真:Cede Prudente)
タビン野生保護区に生息する鳥類は220種が確認されている。写真の鳥、サイチョウもその一つ。米国の研究では、酸性雨が原因で一部の鳥が減少していると報告されている。(写真:Cede Prudente)
発電所建設予定地の近くにある漁村の子供たち。マレーシアのナジブ・ラザク首相は昨年のコペンハーゲン会議で、マレーシアの炭素排出量を2020年までに40%削減すると約束した。また今月はあるブログ上で、同国はこれまで「天然ガスと石炭をあまりに重視してきたので」、「その歪みを正す必要がある」とも語っている。ところが、そうした見解やコペンハーゲンでの誓約にも関わらず、サバ州の発電所計画は進行している。(写真:Yee I-Lann)
トゥン・サカラン・マリーンパークで海藻を養殖する女性(写真:Yee I-Lann)
小船が進むトゥン・サカラン・マリーンパーク(写真:Yee I-Lann)
発電所建設予定地のラハダトゥ湾北岸(写真:Cede Prudente)
赤い丸で囲んだ場所が石炭火力発電所建設予定地である。タビン野生生物保護区はその西に、センポルーナ(およびトゥン・サカラン・マリーンパーク)はその南に位置している。地図提供:グリーンサーフ。
サバ州とコーラルトライアングルの位置関係。地図提供:グリーンサーフ。