地中海では血なまぐさい情勢が展開している。6月の最初の週末、漁師とグリーンピースの活動家が、絶滅危惧種に指定されているクロマグロの運命をめぐって衝突した。グリーンピースの活動家が漁師の網からマグロを逃そうとして両者の争いが始まり、途中、漁師が振り下ろしたかぎ竿で活動家の一人が足を負傷、病院に運ばれる騒ぎとなった。一方、シーシェパードは、「海の怒り(ブルー・レイジ)」運動を宣言し、クロマグロの密漁阻止運動に乗り出した。
グリーンピースとシーシェパードの行動がエスカレートしているのには理由がある。今年のワシントン条約(「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」=CITES)締約国会議において、クロマグロの国際取引を禁止する提案が否決され、環境保護運動を大きく失望させたのだ。決議案否決の背後には日本政府の激しいロビー活動があった。捕獲されるクロマグロのほとんどが、寿司や刺身を提供する日本のレストラン向けのものである。クロマグロの希少化にともない、その値段は上昇している。今や一匹あたり10万米ドルの値をつけることも珍しくない。
1970年以来、大西洋のクロマグロの数は商業目的の乱獲のために80%減少した。各国の科学者たちは大西洋クロマグロの絶滅を回避すべく、全面的な捕獲禁止を繰り返し訴えてきた。しかし現在にいたるまで短期的な商業利益が優先され、この生物の長期的な存続の問題は後回しにされている。
クロマグロは食物連鎖の最上位に位置する生物で、海の生態系に重要な役割を果たしている。写真提供はNOAA。 |
6月4日、グリーンピースの活動家は、フランスの合法的な巾着網漁業者のもとからクロマグロを逃そうと試みた。彼らは捕獲されたマグロを囲う魚網の一部を土嚢を使って引き下げ、開いた部分からマグロを逃そうとしたのである。これを阻止しようとした漁師たちは、活動家たちに玉ねぎを投げつけたほか、こん棒で攻撃し、グリーンピースのゴムボートに突撃したうえ、刃物や釣り針、四爪錨でボートに穴を開けたとグリーンピースは伝えている。この抗争でグリーンピースは2艇のボートを失った。
グリーンピースのメンバーである海洋環境保護活動家オリバー・ノウルズは、ある報道発表の場で、「今日グリーンピースが行ったクロマグロのための非暴力運動は、海のクロマグロを守り健全な地中海を将来に残していくために必要なことだ」と述べた。そして、「われわれは、この破壊的な漁船が巨大な網を使いほんの数時間前に捕獲したクロマグロを逃そうとした。しかし、他の漁船からこれ以上の暴力を受けることになる前に撤退した」と続けた。
かぎ竿で足を負傷したのは活動家の一人、フランク・ヒューイットソンである。彼によれば、漁師たちは彼の足に突き刺さったままのかぎ竿を利用して、グリーンピースのボートを自分たちの方に引き寄せたという。結局、彼は近くの病院にヘリコプターで運ばれた。2人の子供がいる45歳の彼は手術を受け、症状は回復に向かっているとのことである。ところで、この事件で想起されるのは、昨年夏に起きた別の事件である。ある女性の活動家が、巾着網漁船の一つに乗り込もうとして、顔面を何度も殴られたというものである。
事件の翌日、マルタ水産養殖事業者連合はグリーンピースの活動家たちについて、「対立を求めており、望みどおりのものを手にしただけだ」とし、グリーンピースは「暴力的な違法行為をした。昨日の出来事の結果に責めを負うのは彼ら自身に他ならない」と述べた。
活動家の標的となったフランスの水産会社Sathoan社長、ベルトラン・ウェンドリンは、グリーンピースは合法的なビジネスを妨害し漁師たちの賃金を脅かしたとコメントした。
一方、グリーンピースは自身の行動を擁護して、次のように述べている。漁船のクロマグロ漁が法律で許可されたものであれ、クロマグロ漁の規制機関である大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)そのものが、これまで再三にわたりクロマグロの乱獲防止に手を打ち損ねてきたではないかと。
捕獲されたクロマグロ。写真提供はNOAA。 |
「合法な漁業かどうかは問題ではない。クロマグロを絶滅させるビジネスなら、われわれは今後も巾着網漁業を阻止する行動を続けていく」と、活動家の一人ウィリー・マッケンジーは事件の後、グリーンピースのblogに書いている。
ICCATへの批判はこの10年間に次第に高まった。昨年、ICCATの科学者たちはクロマグロ漁の全面停止を訴えたが、ICCATの対応は今季1万3,500トンの漁獲割当量を設定したのにとどまった。ところが、密漁が横行し、各季の実際の漁獲量はICCATの割当量すらはるかに超えている。環境運動団体のシーシェパードは、全漁獲量の4分の3が密漁によるものと推定しており、密漁船に焦点をあてて活動していくと述べている。
シーシェパードはウェブサイトで、「国際法の許す範囲内であらゆる手段を行使していく」と述べている。元グリーンピース活動家が立ち上げたこの団体は、他の船への突進や停泊中の捕鯨船の破壊など、グリーンピース以上に攻撃的な活動を行うことで知られている。
「われわれは密漁を阻止したいのだ」とシーシェパード理事ラミヤ・エセムラリはAFPに語っている。そして今回の事件については、たとえ合法的な漁業であっても「クロマグロを絶滅の危機にさらすもの」である以上、グリーンピースの行動は支持できると表明した。
シーシェパードは、動物をテーマとするテレビ番組専門局のアニマルプラネットがシリーズものの「クジラ戦争Whale Wars」を放映し、シーシェパードの活動を紹介して以来、支持を広げるようになった。
一方、6月7日にグリーンピースは海での活動を再開し、チュニジアの曳航船が捕獲していたクロマグロを海に逃すのに成功した。
フランスの全国漁業者団体はグリーンピースについて、「商売道具の破壊」に躍起となっており「暴力的だ」と述べた。またSathoan社長ウェンドリンは、 「フランス政府に船員の安全を確保すべく介入するよう要請した」という。
負傷した活動家ヒューイットソンはSunday Times. で次のように語っている。「漁業関係者は自暴自棄になっているようだ。自分たちの絶望的な商売をさらに消滅に追い込もうとしているのだから」。そして、「これほど重要な海洋資源が間違った方法で管理されているのは、すべて彼ら自身の責任だと思う」と続けた。
世界自然保護基金WWFの昨年の報告によれば、地中海のクロマグロは捕獲をやめない限り2012年までに実質的に絶滅すると予測されている。報告書は、大西洋クロマグロの数は2002年から2007年の間に半減したうえ、繁殖魚の大きさも過去15年の間に半分に縮小したと指摘している。