今回、野生生物保護団体のディフェンダーズ・オブ・ワイルドライフ(Defenders of Wildlife)メキシコ事務所所長、フアン・カルロス・カントゥ(Juan Carlos Cantu)がのは メキシコにおける違法なインコ取引の実態と、この取引についての彼の画期的な研究がメキシコ議会を動かし、ついにはメキシコ野生動物保護法の改正という形でインコ取引の全面禁止を実現した、その経緯についてである。
本インタビューの初回放送日は March 8, 2010.
野生インコにとって、ペット市場向けの違法取引の横行は、生息地の縮小に次ぐ大きな脅威となっており、その影響は衝撃的である。
「数多くの種が個体数を減らし今や絶滅危惧種となっているが、その原因は大規模に行われている野生インコの違法な捕獲である」と、ディフェンダーズ・オブ・ワイルドライフ、メキシコ事務所所長の Juan Carlos Cantu, は述べている。彼はまた、「この違法取引がなくならない限り、今後10年から20年の間に多数の野生種が姿を消すだろう」と予想している。
ディフェンダーズ・オブ・ワイルドライフはこの状況について2007 で詳しく説明しているが、それによれば、メキシコでは毎年6万5,000羽から7万8,500羽もの野生インコが違法に捕獲されている。
このように違法捕獲されたインコは何千羽と米国に密輸されているが、同調査報告が明らかにしたように、全体の約90パーセントはメキシコ国内市場向けに売買されている。この状況は、密輸業者が毎年15万羽ものメキシコ産インコを米国に持ち込んでいた1980年代とは大きく異なっている。厳格な法律とその施行の結果、密輸インコの数は約9,400羽にまで減少したのである。しかし同時にメキシコ国内市場の拡大が進み、違法に捕獲されたメキシコ産インコはその大多数が内需向けとなった。過去10年間、メキシコへの外国産インコの密輸もまた激増した。現在は毎年10万羽を超えるインコが、中南米諸国からメキシコに違法に輸入されている。
アカコンゴウインコ (写真-Rhett A. Butler) |
このような違法取引では、輸送時に多数のインコが狭い檻に詰め込まれ、換気や給餌・給水が不十分なために何千羽と死亡する。 カントゥの推定では、メキシコで違法捕獲されたインコの75パーセント、すなわち実数でいえば毎年約5万羽から6万羽が最終目的地に到着する前に死亡している。
フアン・カルロス・カントゥはディフェンダーズ・オブ・ワイルドライフ、メキシコ事務所のすべてのプログラムを管理、実施している。同団体入職前はグリーンピースのメキシコ支部に所属し、海洋と森林保護運動のコーディネーターを務めた。彼が指揮をとったこの運動は、世界最大の国立クジラ保護区をメキシコ海域に創設するという成果をあげた。また彼は、メキシコの非政府組織であるTeyelizの共同創設者でもあり、野生生物の違法取引に関する多数の報告書を作成している。さらに、ウミガメ保護団体のシータートル・リストレーション・プロジェクト(Sea Turtle Restoration Project)でも活動し、魚網で混獲されたウミガメを逃す装置の取り付け義務化をメキシコ政府に実施させたほか、多数のプロジェクトを担当した。
フアン・カルロス・カントゥは2002年にディフェンダーズ・オブ・ワイルドライフに加わり、2007年に『メキシコの違法インコ取引-包括的評価(The Illegal Parrot Trade in Mexico: A Comprehensive Assessment)』を発表した。この報告書はメキシコ議会を動かし、インコ取引を全面禁止する国内野生生物保護法の改正が実現した。
彼の長年にわたる活動で、絶滅危機にある多くの種のインコ、例えばコバタンや ヤマヒメコンゴウインコがワシントン条約(CITES=絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)の付属書Ⅰ(絶滅のおそれがあり商業目的のための国際取引が全面禁止された種)にリストアップされた。彼はまた、違法ウミガメ取引をテーマとするコミックを5本出版したほか、ラジオ番組「スーパーヴィヴェンシア」をスタートさせ、野生生物の様々な問題について社会の意識を大きく高めた。このラジオ番組はその放送局の番組の中でも最も高く評価されており、リスナーは40万人を超えている。
フアン・カルロス・カントゥへのインタビューは以下の通りである。
ローレル・ニーム: 違法インコ取引に関心をもつようになった理由は何ですか。
フアン・カルロス・カントゥ:メキシコ人とメキシコ文化は、コロンブスの到着以前から、インコと強いつながりをもってきました。アステカ人、そしてメキシコや中南米に住んでいた民族はいずれもインコと深く関わってきたのです。
ローレル・ニーム: どのようにですか。
フアン・カルロス・カントゥ:インコはペットとして捕獲されたほか、食用にもされていました。でも一番重要なのは、インコの羽根が貴重なものとして扱われてきたということです。
ローレル・ニーム: 羽根が利用されたのですか。
アカコンゴウインコ (写真-Rhett A. Butler) |
フアン・カルロス・カントゥ:そうです。彼らはインコの羽根で衣類を作り、また様々な芸術にも利用しました。当時は大変な貴重品で、アステカ人は戦闘的な民族だったのですが、他の先住民族と戦い征服するたびに、貢物としてインコの羽根を何束も要求したのです。ある時には南メキシコの民族に対し2万束のインコの羽根を要求したこともありました。
ローレル・ニーム: つまり、インコの羽根は貨幣とか金のようなものだったわけですね。
フアン・カルロス・カントゥ:その通りです。羽根は本当に、本当に、貴重なものだったのです。
その後、スペイン人が到来しアメリカを征服すると、インコ取引のほとんどは基本的にはなくなったのですが、ペットとしてのインコの捕獲は続きました。そのようにしてメキシコでは、インコを愛玩することがそれこそ何百年、何世紀と続いてきたのです。そのためインコを飼うことはメキシコ文化の一部でもありました。一時は、どの家庭も必ずインコを飼うべきだとすら言われたほどです。
ローレル・ニーム: ペットとしてだけですか。ほかに食用としてはどうだったのでしょう。
フアン・カルロス・カントゥ:ほとんどの場合はペットですね。南メキシコではある時期まで食用にされていましたが、政府が禁止しました。というのも、インコは強い毒性のある種や果物類を食べるからです。インコを食べた人は食あたりをおこすので、禁止されるようになったのです。
基本的に人々はインコを愛玩動物としてきました。しかし著しい乱獲も進んでいました。またその後、70年代から80年代には米国や欧州でインコの人気が大きく高まります。そこでインコのほとんどが対米輸出用に捕獲されるようになり、密輸も横行したのです。何十万羽ものインコが欧米諸国に輸出されました。
ローレル・ニーム: 輸出されたのはインコの全種類でしたか、それとも特定の種に集中していたのでしょうか。
フアン・カルロス・カントゥ:メキシコには22種のインコがいます。このうち約20種が捕獲対象となっていました。しかし主に狙われたのはアマゾン原産のインコです。アマゾンには実に無数の種類のインコがいます。
ローレル・ニーム: 国際取引の増加で、そうした種類のインコの個体数に影響がおよびましたか。
キホオボウシインコ(Amazona autumnalis) (写真-Rhett A. Butler) |
フアン・カルロス・カントゥ:80年代の終りまでに捕獲対象種の多くが絶滅の危機に瀕するようになりました。メキシコでは個体数があまりに大きく減少したので、政府はこれらの種の捕獲禁止に乗り出しました。つい2年前までインコの捕獲は合法でしたが、それは5、6種に限られていました。とはいえ、メキシコでインコの捕獲が合法だった時でも、ほとんどのインコは密猟者により非合法的に捕獲されていたのです。
ローレル・ニーム: では、合法的な捕獲の条件は何だったのでしょう。
フアン・カルロス・カントゥ:まず、インコを捕獲して売るためには、環境省の許可がいりました。しかし問題は、統制がまったく行われていなかったということです。政府は何十年にもわたってインコの捕獲と取引を統制しようとしてきましたが、効果はありませんでした。というのも、許可を出す時は例えば、ある特定種をある特定の数だけ捕獲できるとする許可を出すわけです。しかし一旦その許可が出てしまえば何の統制もありません。猟師たちはただ野山に繰り出し、欲しい種類のインコを何でも捕らえるだけです。それに何度でも好きなだけ捕獲するのです。彼らの行動を監視する人はいません。そのため、実際には、許可された数の5倍から10倍のインコが捕獲されていました。つまり事実上、インコの合法取引は違法取引の隠れ蓑に使われていたわけです。
ローレル・ニーム: 何らかの監視活動はありませんでしたか。
フアン・カルロス・カントゥ:メキシコ当局が合法活動を監視することはとても困難でした。なぜなら、どのインコが合法的に捕獲され、どのインコが違法に捕獲されたものなのかを知る方法が全くなかったからです。当局が試したことといえば、例えば、インコの足にバンドを装着させ、どのインコが合法的に捕獲されたものか分かるようにしたことなどです。
ローレル・ニーム: それは効果はありましたか。
フアン・カルロス・カントゥ:猟師たちはインコを捕らえても、その足にバンドはつけませんでした。そしてインコを客に売る時にこう言ったのです。バンドなしのインコが欲しければ値段はこれこれだ、しかしバンド付きが欲しいならそれよりずっと高くなりますよと。こんな風にして猟師たちはバンドを何回も使いまわしたのです。
ローレル・ニーム: バンドはつけたりはずしたりできるものだったのですね。
メキシコのインコの種類
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フアン・カルロス・カントゥ:それが一つの問題でした。バンドはインコがまだとても若いひな鳥のうちにしかはめられないような閉じたバンドでなければ、意味がありません。そのようなタイプのバンドなら成鳥にはつけられませんから。しかし彼らが使っていたのは開閉できるバンドなのです。それで全く統制できなかったわけです。インコの違法取引が大々的に行われていることは誰もが知っていたし、当局の人間すら分かっていました。当局の言い分はこうでした。確かに我々は違法取引が行われているのを知っている。けれど、どれくらいの規模か、違反者は誰か、どういった種類が影響を受けているのか、どの地域で行われているのか、そういうことは全て不明だ。なぜなら違法に行われているのだから。それに違法行為だから、調査も統制もしようがないのだ、と。
ローレル・ニーム: それで、あなた方はどうしたのでしょうか。
フアン・カルロス・カントゥ:それで私たちはどうしたか。数年前、自分たちで調査を実施しました。ディフェンダーズとTeyelizなどの非政府組織とが協力して調査したのです。完了までに2年かかりました。私たちがやったのは猟師たちへのインタビューでした。
ローレル・ニーム: どのようにインタビューしたのですか。
フアン・カルロス・カントゥ:メキシコの場合、問題は、猟師たちは組合単位で仕事しているということです。そこでまず、組合指導者たちと話をしました。そして指導者を通じて猟師たちと話すことができたのです。これらの組合は合法的なものですが、彼らがほとんどの場合は違法にわなを仕掛けていることを、私たちは事実として知っていました。
ローレル・ニーム: 猟師たちはあなた方のインタビューに応じてくれましたか。
フアン・カルロス・カントゥ:ええ、信じられないほどにね。信じられなかったです。彼らは自分たちのしていることを臆せず話してくれました。彼らの考えでは、悪いことなど何もしていないのですよ。単に鳥をわなにかけているというだけです。彼らのほとんどは生涯それをやってきました。父親や祖父に仕事のやり方を学んだりして。だからごく普通のことなんです。自分たちのしていることが本当に違法であるなどと全く信じていませんでした。たとえ法律がそのように変わったのだとしても、彼らはただ、それは何かの間違いだとしか思わないし、今までずっとやってきたことをまたやり続けるだけです。それで彼らは実にオープンに、インコをどうやって捕まえるか、何羽捕まえたかなどについて話してくれたのです。猟師全員と話すことはできませんでしたが、ずいぶん大勢にインタビューしたので、それ以外の猟師についても大体事情を推察することができるようになりました。
ローレル・ニーム: どんなことが分かりましたか。
フアン・カルロス・カントゥ:猟師たちは毎年7万5,000羽以上のインコを違法に捕獲していることが分かりました。合法的に許可が下りる捕獲数は年にせいぜい2,000から3,000です。つまり、メキシコで捕獲されるインコのきわめて大部分が違法に捕獲されていたのです。
ローレル・ニーム: それで、そのような調査結果を得て、どうされましたか。
フアン・カルロス・カントゥ:報告書を仕上げて、私たちは当局にそれをもちこみ、何が起こっているのかを説明しました。そして、当局がとっているインコ取引の統制措置は効果がなく、違法取引を隠蔽しているに過ぎないから、取引そのものを禁止する必要があると訴えました。また、インコの個体数が大きく減少していることも指摘しました。現在、22種のうち11種は絶滅が危惧されており、全部で20種が何らかの危機に瀕している。このうち絶滅寸前のものもあれば保護されているものもある。しかし問題は、インコの合法取引が違法取引を隠蔽し、インコ絶滅の要因になっているということだ、とね。
最終的に私たちはこの情報をメキシコ議会に提出し、下院と上院に法改正を訴え、支持を得ることができました。それで2008年10月に、メキシコにおけるインコの捕獲はすべて禁止されたのです。つまり現在メキシコでは、野生インコは捕獲も取引も全面的に禁止されています。
ローレル・ニーム: 所有したり売ることについてはどうですか。
フアン・カルロス・カントゥ:野生インコについては禁止されています。問題は、野生インコをペットとして飼っている人は既に大勢おり、それはそのまま続けてもよいのですが、売ったり取引の対象にすることはもはやできません。また野生インコの購入も禁止されました。人工繁殖されたインコ、特に外来種のものなら買うことができます。メキシコは中南米でも有数の外来種インコ輸入大国となっています。そうなったのも過去10年から15年の間のことですが、その傾向は今も拡大が続いています。現在、ペットショップや市場で、または露天の屋台で見るインコのほとんどがアフリカ、アジア、南米産の輸入インコです。
ローレル・ニーム: 禁止法の成立後、状況はどう変わりましたか。
フアン・カルロス・カントゥ:それ以来、私たちは露天商人や市場、ペットショップを監視しており、猟師たちとも話をしました。変化は起きています。猟師たちと話したとき、彼らのほとんどはインコの捕獲を一切やめたと言っていました。中には自ら人工繁殖を始めたという人もいました。特に外来種のインコです。実際、露天商や市場のほとんどを見てまわりましたが、売られているインコのほとんどが現在は外来種です。ペットショップもそうです。また、法律が変わり野生インコの購入は法律違反になったということを国民に広く伝えるため、大々的な全国キャンペーンも始めました。
ローレル・ニーム: 国民の認識を高めるそのキャンペーンでは、どんなことをしましたか。
フアン・カルロス・カントゥ:私たちは複数の団体と協力しながら活動しています。また現在は環境省とも協力しています。私たちが環境省の考えを変え、今や彼らの協力を得られるようになったのです。またウェブページを作成し、インコの全22種について、法律について、インコ保護のために人々ができることについて、情報を提供しています。メッセージは基本的に、野生インコを買うな、ということです。そのメッセージを載せたポスターもたくさん作り、メキシコ中に配布しました。様々なプロモーショングッズも作りました。子供向けの本、ぬり絵の本、物語、子供向け・大人向けのマンガ、教師用の教材、シールなどなど。そしてそうしたグッズをすべて非政府組織や科学者や、キャンペーンへの協力を申し出てくれた人々に配り、グッズともに情報を広く伝えてもらっています。これまでのところ大きな成果が上がっています。キャンペーンには非常に多くの非政府組織が関わっているほか、複数の研究機関も協力してくれています。また多数の科学者たちが情報の伝達や、ポスターを配布したりあちこちに貼ったりすることにも手を貸してくれています。現在、私たちが作った教材を使いながら、たくさんの人々が様々なインコ保護のプログラムを立ち上げています。
ローレル・ニーム: 国民意識を高めることに焦点をおいたのはなぜでしょう。
フアン・カルロス・カントゥ:問題は、密猟者や密輸業者を追跡しコントロールしようとするのはとても難しいということです。キャンペーンの基本的アイデアは、人々が野生インコを買わないよう仕向けていくということなんです。需要を減らすことができれば、違法な供給も減らざるを得ません。そのようにして、法律による禁止が実際に効果を持つようにすることができるのです。