18日から29日にかけて名古屋市で開催された生物多様性条約(CBD)第10回締約国会議(COP10)で、発展途上国の生物多様性保全へ多額の支援を決めた日本であるが、自国の生物多様性保全にはどうやら十分に目を向けていないようだ。
山口県上関町長島やその周辺海域は、日本で最初に指定された国立公園の一つである瀬戸内海国立公園に含まれ、日本の科学者等に「生物多様性のホットスポット」、「瀬戸内最後の楽園」と呼ばれる希少生物の宝庫である。しかし、この海域は現在、中国電力による上関原子力発電所の予定地となり、原発推進派と反対派による攻防戦が繰り広げられている。
そんな中、CBD・COP10開催日の前日、中国電力はこの海域の埋め立てを強行に進めようと取りかかった。現地では24時間態勢で祝島の島民達やシーカヤックの若者がそれに対抗している。
これまで、原発建設の中止を求める86万人の署名が経済産業省に提出され、日本生態学会、日本ベントス学会、日本鳥学会の3つの学会が中国電力のおこなった環境アセスメントの不備を指摘、やり直しを12回にわたり求めたが状況はいっこうに変わっていない。
上関原発予定地長島と周辺海域の生物多様性
1960年代に瀬戸内海は開発による埋め立て、護岸工事そして海砂採取により多くの生き物が生息地を失い、姿を消した。しかし、瀬戸内海でも上関原発予定地とその周辺海域では、今でもその当時の自然がのこり、たくさんの生き物が生息している。
特に、天然記念物であり、絶滅危惧種であるカンムリウミスズメ(Synthliboramphus wumizusume)が一年を通して生息が確認されているのは、世界でもこの海域のみである。また、スナメリやカラスバトなど日本の他の地域では絶滅、あるいは絶滅に瀕している生物の多くがこの海域で健全に生息が確認されている。
原子力発電所が建てられた場合、どんな影響が及ぶのか
上関原発が建設された場合、埋め立てによる被害に加え、この海域には海水温より7℃高い温排水が毎秒190トン排出されることになる。瀬戸内海全体の水が90%入れ替わるのに1年半から2年かかるといわれ(湯浅一郎氏)、温排水がたれながされれば、瀬戸内海全体の海水温の上昇が懸念される。実際、四国の伊方原発が出来てから瀬戸内海の海水温があがっているという報告もあり、上関原発が建設されれば、さらに上昇することが予想される。
これまでの経緯
中国電力と反対派の攻防戦はすでに30年近く続いている。中国電力は建設地対岸の祝島島民、環境NGO等から批判されている。この攻防戦が特に激化したのは2008年、山口県知事が中国電力に埋立許可書を交付したことがきっかけである。一年以内に工事が着工されなければ許可は無効となるため、反対派は1年間24時間態勢で工事を阻止し続けた。しかし、中国電力は反対派の隙をつき強行的に工事を着工。これにより両者の溝はさらに深いものとなった。
COP10での活動
反対派の市民団体「広島・上関リンク」(呼びかけ人:広島市立大学 湯浅正恵教授)は、名古屋で開かれたCOP10会場で上関原発問題が本会議で取り出されるよう「広島・上関リンクに連帯する国際共同声明」を発表。賛同団体は現在国内270団体、海外100団体の計370団体となった。
COP10開催中の22日には、本会議においてNGO-CSO 宣言 (非政府組織-市民社会組織宣言)がCBD市民ネットの道家哲平氏と、インドのNGO International Collective in Supporting for Fishworker (ICSF)のラミア ラジャゴパーレンにより読み上げられ、上関原発についても言及された。
「原子力の日」である26日、COP10会場近くでは上関原発に反対する日本のNGOの活動に、賛同している海外のNGOも加わり会議参加者へチラシを配った。 |
湯浅教授によれば日本で原発反対の署名が計画を中止させたことはないそうだ。しかし、「COP10開催期間中に政府による具体的な行動が見られないにせよ、このような状況を世界に喚起するよい機会と考える。」と湯浅教授は話す。
日本の専門家の意見、民意の伝わらないこの状況に、日本のNGO等は海外からの支持が得られれば日本政府がよりこの問題を無視できないのではないかと考えている。
「広島・上関リンク」では引き続き賛同者を募り、原発建設の許可が降りないよう政府に働きかけていく方針だ。
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