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3月のある一夜にうちに、重武装し馬に乗った密猟者の一団がチャド南部で89頭のゾウを虐殺した。うち30頭は妊娠したメスだった。この惨劇は2013年に起きた中で最悪の密猟事件だったが、2012年にカメルーンの国立公園で650頭のゾウが殺された事件の前にはそれすら霞んでみえる。ゾウの密猟は過去最悪の状況で、専門家は毎年3万頭が象牙のために殺されているという。その上、年190億ドル規模と推定される違法な野生動物取引の犠牲になるのはゾウだけではない。サイ、大型ネコ科、大型類人猿、さらにはセンザンコウやスローロリスといった馴染みのない無数の種もそうだ。止まらない殺戮に対し、40以上の動物園と多数の野生動物保護プログラムの代表者が集い、長く放置されてきた野生動物関連犯罪への緊急対策を世界各国の政府に要請した。
2013年6月にアイオワ州デモインで行われた、保全に貢献する動物園・水族館(ZACC)の会議では、動物園、水族館、世界のフィールドワーカーを代表する200人以上の野生生物保全従事者たちが、急増する野生動物取引に警鐘を鳴らした。会議の参加者たちは各国政府に対し、密猟者や密輸業者への取締や罰則を強化し、積極的かつ連携のとれた対策を行うよう求めた。また、消費者に向けた野生動物取引に関する啓発キャンペーンの必要性を訴えた。
野生動物の違法取引は世界の生物多様性に対する重大な脅威だ。エキゾチックペットや伝統薬、ブッシュミートとしての野生動物の需要は、世界中にはびこり密猟者と消費者を結びつける広大な犯罪ネットワークに支えられている」と、会議の参加者でエデュケーション・フォー・ネイチャー・ベトナム(ENV)の創設者兼代表キエン・ヴー氏は言う。ENVが野生動物関連犯罪と闘うベトナムは、違法な野生動物製品の主要消費国のひとつだ。
押収されたアムールトラの毛皮を調べるリンダ・カーリー博士。1996年、ロシア沿海州。写真:D. Miquelle, WCSロシア.
ZACC会議は、最近米国政府がアフリカの密猟対策に1,000万ドルの支援を約束したことを歓迎しつつ、これは出発点とみるべきだと訴えた。
「市場に流通する野生動物の数は自然増加率を遥かに上回っている。野生動物の違法取引は動物の命を浪費する悲劇であり、人のニーズを満たしていないばかりか、将来にわたる人類の幸福を損なっている」と、オックスフォード・ブルックス大学のアナ・ネカリス氏は言う。彼女はインドネシアに拠点を置くリトル・ファイアフェイス・プロジェクトの創設者兼代表でもある。ネカリス氏が保護に取り組むスローロリスは、ペット用の違法取引という脅威の増大に直面している。スローロリスの密猟では、1匹の子供を得るためにしばしば家族群の他個体がすべて殺される。その上、知名度の低いこの霊長類の一種は、伝統薬の材料としても大量に殺されている。
会議に参加した保全従事者たちによれば、野生動物の違法取引が自給自足のためであることはほとんどなく、犯罪組織が牛耳るグローバル産業になっており、密猟者たちは重武装して最新テクノロジーを備え、腐敗した役人とつながっている場合が多い。こうした犯罪者たちは、しばしば人身売買や違法伐採、薬物や武器の取引にも関わっていると専門家は言う。野生動物の違法売買で得られた資金が国内紛争に流れることは珍しくなく、テロ資金となることすらある。
ブルンジで密輸業者から押収されたチンパンジー。全アフリカ保護施設連合(PASA)が運営するウガンダの保護施設、ヌガンバ島のチンパンジー・サンクチュアリ(CSWCT)に運ばれた。 |
「象牙の世界的需要が(コンゴ民主共和国の)地域全体の治安悪化を引き起こした」と、コンゴ民主共和国エプルに拠点を置くオカピ保護プロジェクトの代表、ジョン・ルーカス氏は言う。「違法な象牙売買の売上は武装勢力の資金源となっており、権力と富を求める彼らは人と野生動物の両方を脅かしている。」
一昨年、エプルにあるオカピ保護プロジェクト本部をゾウ密猟者が襲撃し、職員6人と飼育下のオカピ14頭を殺害した。密猟者たちは本部と集落を襲ったうえ、数名の女性たちを誘拐した(後に解放)。一方、ウガンダの神の抵抗軍(LRA)は象牙を武器と交換している、とガーディアン紙は報じる。
野生動物取引は海にも拡大し、フカヒレ需要により数種のサメが絶滅の危機に陥っている。専門家の推定では、2010年にフカヒレのために殺されたサメの数は9,700万匹に達する。鰓板に薬効があるとされるマンタも密輸業者のターゲットだ。
アジアの伝統医療はトラやサイをはじめ、多くのカリスマ的動物種を犠牲にしている。20世紀の間にトラの個体群が95%も減少した一因は、体のパーツ目当ての容赦ない密猟だった。今や米国国内で飼育されるトラの数の方が、全世界の野生のトラの個体数よりも多い。サイの角には何一つ医療効果がなく、人の爪と変わらないと科学的検証で明らかになっているにもかかわらず、2亜種のサイ、ベトナムのジャワサイとニシクロサイが、つい最近密猟によって絶滅した。サイの個体群は恒常的に密猟にさらされており、特に南アフリカでは昨年毎日2頭ずつ殺された計算になる。
ジャワスローロリス。ロリスの中で最も絶滅が危惧されるこの種もジャワ島では売られている。写真:Wawan Tarniwan
「私たちはサイ、トラ、ゾウといった象徴的な動物種の最後の一握りを失う瀬戸際にある。人類がその夜明けの時代から地球を共有してきたこれらの動物種が、50年以内の絶滅を危ぶまれているのだ」と述べるのは、マレーシアのサバ州に拠点を置くキナバタンガン・オランウータン保護プログラム(HUTAN)のマーク・アンクレナス氏だ。「この悲劇を止めるには、早急に現行法の執行を強化し現地対策を増強することが必要だ。」
よく知られた種以外にも、無数の爬虫類、両生類、鳥類、哺乳類がブッシュミート市場や違法なペット取引、伝統薬産業に消えている。とりわけ東南アジアの熱帯林では、密猟が与えた打撃はあまりに大きく、専門家が一部の地域を「空っぽの森(empty forest)」と呼ぶに至っている。
「世界が団結し今すぐ行動を起こすべき時だ。地球の壮大な多様性が人類文化の根源と共に失われる前に」と、キエン・ヴー氏は言う。
インドネシア・ジャカルタでエキゾチックペットとして売られていたカワウソの子供。写真:Rhett A. Butler
ロシア沿海州カサン地方で発見されたメスのアムールトラの死体を調べる、ロシア連邦密猟対策チームInspection Tigerのアンドレイ・ユーチェンコ氏。この個体は野生動物密売のためにトラ用のくくり罠で捕獲されたものの、罠の見回りがなされず、この場所で死んで腐敗したとみられる。写真:Inspection Tiger
鎖につながれ衰弱したチンパンジー。アンゴラでジェーン・グドール研究所(JGI)チンパンジー・エデン(本部:南アフリカ)により救出された。この個体はその後完全に回復した。写真:JGI Chimp Eden/PASA
ラオスの市場で食用に売られる小鳥。写真:Rhett A. Butler
中国で売られるヤマネコの毛皮。写真:Rhett A. Butler
中国の市場で売られる串刺しになったヤモリの干物。写真:Rhett A. Butler