インドネシア・マレーシアの油ヤシプランテーションは年7%増加
インドネシア、マレーシア、パプアニューギニアの約350万ヘクタールの森林が、1990年から2010年の間に油ヤシプランテーションに転換されたという包括的な調査結果を、持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)が公表した。
この研究は、様々な機関に所属する研究者の国際チームが行い、一連の7本の学術論文として発表したもので、3カ国における土地利用変化と油ヤシ生産拡大に起因する温室効果ガス排出量の推定、油ヤシ生産の社会的影響および環境影響の評価、域内の油ヤシ産業の将来の成長予測、泥炭地を開拓してつくられたプランテーションの炭素排出量と炭素貯蔵量の詳しい算定方法を扱っている。
研究結果はパーム油産業の評判の実態を、プランテーションに転換された植生タイプとして明示した。例えば、期間内に造成されたプランテーションの37%が森林を犠牲にしたものだったが、原生林を伐採して造成されたプランテーションは4%にすぎなかった。Tropenbos Internationalのペトラス・グナーソらによる論文では、土地改変の内訳がさらに詳細に示されている。
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伐採林と未伐採林、高地林と湿地林をあわせた、期間全体を通じてのの森林から油ヤシへの転換はパプア州(61%; 3万3,600ヘクタール)、サバ州(62%; 71万4,000ヘクタール)、パプアニューギニア(54%; 4万1,700ヘクタール)で最も高く、以下カリマンタン(44%, 123万ヘクタール)、サラワク州(48%; 47万1,000ヘクタール)、スマトラ島(25%; 88万3,000ヘクタール)、半島部マレーシア(28%, 31万8,000ヘクタール)と続く。
油ヤシプランテーション目的の森林伐採の割合は近年増加しており、2001~2005年の期間に20%だったものが2006~2010年の期間には36%となった(1990年代は48%)。以前と比べパーム油価格が上昇したことを考慮するとこの結果は驚くにはあたらない。けれども拡大の主な対象は森林ではなく、油ヤシプランテーションの大部分はアグロフォレストと天然ゴムプランテーションを改変したもので、特にスマトラ島(59%)と半島部マレーシア(44%)でその傾向が顕著であった。
インドネシアのスマトラ、カリマンタン、パプア(上)とマレーシア(下)における土地利用変化のまとめ。
左:新たに造成された油ヤシプランテーションの造成以前の土地利用(左下の数値は油ヤシプランテーションの年次増加率)。
中央:森林伐採後の土地利用形態(左下の数値は年次森林伐採率)。
右:5年間の期間別の土地利用変化。
プランテーションに転換された森林の大部分は劣化した低地の天然林だった。この傾向は簡単に説明がつく:価値の高い木材が択伐された後、開発業者が低地林に見込める商業的利益は小さくなり、油ヤシプランテーションに転換することが収益性の高い選択肢となるのだ。低地が標的にされる傾向にあるのは、高地よりも耕作に適しており、アクセスが容易であるためだ。
草原と灌木地も、特にカリマンタンにおいて、大規模にプランテーションに転換された。こうした地域は主として、本来は森林であったが1982~83年と1997~98年のエルニーニョによる山火事で灌木地や草原に変わった場所である。
研究によれば、泥炭地に造成されたプランテーションが全体に占める割合は比較的小さく、約15%に過ぎないが、この種の土地改変の温室効果ガス排出量への寄与は相対的に大きい。泥炭土壌の排水により大量の炭素が大気中に放出されるためだ。
「2010年の時点で、泥炭地のプランテーションが油ヤシ栽培面積に占める割合は18%(240万ヘクタール)であったが、泥炭火災および泥炭酸化による炭素排出量は、商業規模の油ヤシプランテーション関連の土地利用に起因する総排出量の約64%(CO2換算で年間1億1,800万トン)に相当する」と、ファフムディン・アグスらは一連の論文のひとつで述べている。
インドネシアとマレーシアにおける泥炭地の油ヤシプランテーション開発、1990~2010年.
研究者らは、泥炭地のプランテーションへの転換による排出量の急増を報告している。それによると、1990年代のCO2排出量は年間2,600万トンであったが、2001~2005年には5,600万トンとなり、2006~2010年は8,800万トンとなった。開発可能な低地が減少し、開発業者が泥炭地に目を向けるようになったのが原因だ。
しかし、概してパーム油生産よりも大きな排出源となっていたのは森林劣化である、と研究は指摘する。
「過去インドネシアにおいて、土地利用変化に起因するCO2排出の大部分(40%)を占めたのは森林劣化であった。これは原生林が伐採され劣化森林となったか、劣化森林が山火事により灌木地となったかのいずれかである」と、WWFのティモシー・J・キリーン、および世界最大のパーム油企業Wilmer Internationalのジェレミー・グーンは概説論文で述べる。「2006~2010年の土地利用変化および泥炭酸化による温室効果ガス排出量をみると、パーム油産業はインドネシアにおける土地利用由来の総排出量の16%、マレーシアでは32%を占めた。」
しかし将来的には、パーム油生産が森林と温室効果ガス排出量に与える影響は増大するとの予想を、Winrock Internationalのナンシー・L・ハリスらによる論文が示している。これまで通りの増加傾向を前提に、ハリスは2050年までのパーム油産業のCO2総排出量を152億トンと予想する。排出量増加の主要因は、大量の炭素を貯蔵する泥炭地や熱帯雨林へのプランテーションの拡大であり、特にボルネオ、スマトラ、ニューギニアでその傾向が顕著だ。だが、泥炭地開発にモラトリアムを設け、単収増加に重点を置けば、これまで通りの予測よりも排出量を50%削減できる可能性がある。モラトリアムに加え、泥炭土壌にあるプランテーションを段階的に放棄し、自然林の復元を行う排出量ゼロ方針でも、域内の油ヤシプランテーションの総面積は62%増加し、パーム油の生産量は実質的に倍増する。
この最後のシナリオを選ぶことで社会および環境への悪影響を軽減できると、Wetlands Internationalのアリーナ・P・シュライアーは、他のNGOの研究者との共著論文で述べている。この論文の主張は、CO2排出量削減の最も簡単な方法は泥炭地のプランテーション開発禁止であるというものだ。
土地利用変化および排水と土地改変による泥炭土壌酸化に起因する地上炭素の排出源別の年平均排出量。すべての土地利用タイプに関する火災のデータがないため、泥炭火災による排出は含まない。.
総合すると、一連の論文は世界の主要パーム油生産国における油ヤシプランテーションの過去、現在、未来の状況に関する大量のデータを提供している。また、油ヤシプランテーション増加の重大な影響として、温室効果ガス排出、地盤沈下および洪水、生物多様性の喪失、火災リスクの増加、生態系サービスの喪失、地域コミュニティへの影響を検討している。
持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)によれば、これらの論文は温室効果ガス排出とパーム油に関して現在RSPO内で進行中の議論の参考としてまとめられたものだ。
政策決定者、研究者、一般大衆を含めた幅広い議論においても役立つことを願っている」と、RSPOは述べる。
RSPOのオブザーバーが待ち望んでいたこれら一連の論文は、2013年11月11~14日にインドネシア・スマトラ島のメダンで開催されたRSPO年次会議の直前に公表された。RSPOは、社会面・環境面の基準策定を通じて、パーム油に関して今ある懸念に取り組むことを目標としている。
持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)温室効果ガス第2ワーキンググループ技術評議会による報告書
- 謝辞/目次
- 概要
- 東南アジアにおける油ヤシへの土地利用変化に起因するCO2排出の評価のための排出要因の概観
- インドネシア、マレーシア、パプアニューギニアにおける油ヤシと土地利用変化
- インドネシア、マレーシア、パプアニューギニアにおける油ヤシ産業関連の土地利用変化に起因する過去のCO2排出
- インドネシア、マレーシア、パプアニューギニアにおける油ヤシ産業関連の土地利用変化に起因するCO2排出シナリオ
- マレーシアにおける土地利用変化
- 熱帯泥炭地における油ヤシ生産の環境影響と社会的影響に関する科学的総評
- 熱帯泥炭地の油ヤシプランテーションおよび周辺環境における温室効果ガス排出量および炭素貯蔵量の算定方法