北西太平洋で新種のトビエイが発見され、日本での呼び名に従ってナルトビエイ (Aetobatus narutobiei) 命名された。この種の存在は研究者の間で広く認知されていたが、200年以上にわたってロングヘッデッド・イーグルレイ (Aetobatus flagellum) と同一とされてきた。2種への再分類には、広域での保全上の大きな意義があると、新種記載を行ったPLOS ONE掲載の論文で述べられている。
「新種との遭遇は、より深い海域への漁業進出につれて常に起きている。しかし、今回の状況で特殊なのは、 Aetobatus narutobiei の生態に関する情報は Aetobatus flagellum よりよく知られているにもかかわらず、今に至るまで独立種であることを示す分類学研究が行われていなかった点だ」と論文の著者らは述べている。
ロングヘッデッド・イーグルレイ(旧ナルトビエイ、Aetobatus flagellum)の複数の個体群を調査した結果、北西太平洋の個体群には形態的特徴を含めて顕著な相違点がみられた。例えば、概してナルトビエイ(Aetobatus narutobiei)はより大型で、体色も異なっていた。遺伝子分析も形態的相違を裏付けるもので、ミトコンドリアDNAに顕著な差異がみられた。
オスのナルトビエイの頭部。写真:White et al
新記載されたナルトビエイの現在の分布域は日本、中国、韓国およびベトナムのカットバ島周辺である。日本の有明海周辺に最大個体群が生息するが、ここでは養殖貝類を捕食する害魚としてナルトビエイが駆除されている。
「2001年以降、ナルトビエイの個体数削減のための害魚駆除計画が実施され、年間最大1万匹が駆除されてきた。近年、有明海のナルトビエイ個体数は減少している」と著者らは述べる。
新種の発見は、ロングヘッデッド・イーグルレイとナルトビエイ両方の保全において重要な意味を持つ。ロングヘッデッド・イーグルレイはすでにIUCNレッドリストで絶滅危惧種(EN)にランクされているが、新種の命名によって分布域が大幅に縮小することとなった。一方、ナルトビエイは個体数に関する十分な情報がないままに日本で盛んに駆除されている。
トビエイの仲間はマンタ(オニイトマキエイ)とは異なり、プランクトンの濾過食者ではなく、海底で軟体動物や甲殻類を捕食する。また、この仲間は海面からジャンプして全身が水中から脱するようなアクロバティックな軽業でも知られる。
ナルトビエイのメスの幼魚。写真:White et al
ナルトビエイのオスの成魚。写真:White et al
引用文献:
- White WT, Furumitsu K, Yamaguchi A (2013) A New Species of Eagle Ray Aetobatus narutobiei from the Northwest Pacific: An Example of the Critical Role Taxonomy Plays in Fisheries and Ecological Sciences. PLoS ONE 8(12): e83785. doi:10.1371/journal.pone.0083785