2000~2012年の間の樹高および森林の増減を示したグローバル・フォレスト・ウォッチのマップ
森林監視に革命を起こすであろうツールを、世界資源研究所(WRI)が公開した。
グローバル・フォレスト・ウォッチと呼ばれるこのプラットフォームは、40以上の団体が過去数年間にわたって開発してきたものだ。世界の森林に関する様々なビッグデータを利用して、インタラクティブマップやチャートを表示することで、森林破壊、森林回復、工業的林業の拡大の動向を知ることができる。グローバル・フォレスト・ウォッチは、世界の森林を月単位で監視する史上初のツールであり、当局者や環境保護団体はこれを利用して、現在進行形の森林破壊に対して対策をとることができるようになる。
「企業も政府もコミュニティも、森林に関する優れた情報を切望していました。彼らはそれを今まさに手に入れたのです」と、WRIのアンドリュー・スティアー代表取締役は声明で述べた。「グローバル・フォレスト・ウォッチはほぼリアルタイムの監視プラットフォームであり、市民と企業による森林管理のあり方を根本的に変えるものです。今後は、悪者に逃げ場はなく、優れた管理者は実績を認められます」。
グローバル・フォレスト・ウォッチは、Googleのクラウドコンピューティング技術を利用し、以前なら解析に数年はかかったような膨大な量のNASAの衛星データを可視化していると、レベッカ・ムーアは言う。彼女はGoogleアース・アウトリーチおよびGoogleアース・エンジンの代表を務め、またマット・ハンセン率いるメリーランド大学の研究チームと共同で、システムの基になった森林被覆とその変化の高解像度データセットの構築を行った。
「(データセット作成のために)私たちは70万枚近いランドサット画像を分析しました」とムーアは言う。「ランドサット画像のデータ量は合計20テラピクセルに及び、1万台のコンピュータの並列処理による100万CPU時間を費やして、森林被覆とその変化に関するハンセン博士のモデルを実行しました。一台のコンピュータでやろうと思えば15年はかかる分析ですが、私たちはGoogleアース・エンジンの技術を利用して数日で完了させました」。
こうして2000年以降の森林被覆の年次変化を明らかにする高解像度マップが完成した。グローバル・フォレスト・ウォッチは複数のソースからのデータを統合し、ほぼリアルタイムの監視システムを生み出した。同様のシステムを森林伐採防止に利用しているブラジルでは、2004年以降80%近く森林伐採が減少した。利用者(政府当局、環境保護団体、森林を伝統利用する共同体の成員、活動家、インドア派の環境保護主義者など、誰でも)は、特定地域に伐採のサインがみられた際にはメールが送信されるように、個別アラートを設定できる。地域の指定は、自治体、国立公園、あるいは利用者が地図上に描いた図形の範囲などに設定できる。
「技術のある利用者はデータをダウンロードして自分で分析することもできます」と、グローバル・フォレスト・ウォッチ・プロジェクト代表ナイジェル・サイザーは言う。「けれども誰にとっても便利な機能はアラートシステムで、自分が指定したエリアで森林被覆の変化があった時に自動的にアラートを受け取ることができます」。
インドネシア・リアウ州テソ・ニロ保護区付近における森林被覆減少と油ヤシプランテーション拡大の様子
しかし、グローバル・フォレスト・ウォッチは、単なる森林被覆とその変化のデータの可視化以上のものだ。複数の国々について、世界資源研究所は政府を説得し、営林権の地理的データを開示させた。これまで林業部門の不透明性で悪名高かったインドネシアも、油ヤシ、木材、パルプ製紙プランテーションのデータを公開した。グローバル・フォレスト・ウォッチでは当該国の営林地の所有者や許可内容を見ることができる。このデータをレイヤーとして使えば、油ヤシプランテーションが自然林を破壊して拡大する様子を可視化し、保護区内で行われる違法な土地改変をピンポイントで特定することさえ可能になる。例えば、インドネシアの西カリマンタンにある2つの自然保護区(グヌン・ヌイット・ペンリセン、グヌン・ラヤ・パシ)で、油ヤシ農園開発がマップから確認された。グローバル・フォレスト・ウォッチには、コンゴ盆地の国々や、リベリア、コロンビアの全営林権データも含まれている。新たなデータも手に入り次第追加される見込みだ。
リベリアにおける林業操業許可地域
営林権データは、サプライチェーンから森林伐採を撲滅しようと取り組む企業にとってとりわけ有用だろう。
ネスレのダンカン・ポラードは、グローバル・フォレスト・ウォッチは「下請業者が本当に森林破壊フリーであることを示す助けになります」と言う。ネスレは2010年に森林破壊フリーのパーム油調達を行う方針を打ち出した。「また、私たちの世界的な取り組みの進展を確認し報告するのにも役立つでしょう」。
「森林破壊は、森林と関係の深い作物に依存するビジネスに対する現実的脅威です」と、ユニリーバのポール・ポルマンCEOも声明で述べた。「私たちは製品の原料がどこから来るのかを可視化することに努めており、革新的な素晴らしいツールであるグローバル・フォレスト・ウォッチの発足によって、私たちは緊急に必要な情報を手にすることができ、正しい決定を下し、透明性を向上させ、説明責任を果たし、パートナーシップを促進することができるでしょう」。
ウェブベースでインターネットに接続可能な機器のほとんどに対応したこのツールは、政府の森林・保護区管理の向上にも貢献するだろう、と世界資源研究所は述べる。
「インドネシアやコンゴ民主共和国など、多くの政府がグローバル・フォレスト・ウォッチを歓迎しています。より有効な政策設計や、森林法の執行、違法森林伐採の発見、森林管理の持続可能性の向上、環境保全および気候変動に関する目標達成に役立つためです」と、世界資源研究所は言う。
このツールは願ってもない贈り物だと、インドネシアのREDD+当局を率いるヘル・プラセティオは言う。できたばかりの彼のオフィスは、インドネシアを旧態依然とした森林破壊国から森林管理国へと転換させる任務を負っている。
「森林監視能力の向上と、決定を下すための最新情報の入手は必要不可欠です」と、彼は声明で述べた。「グローバル・フォレスト・ウォッチは素晴らしいもので、私は継続的な支援を行うつもりです。この効果的なツールによって、世界各国が責任放棄と無知を過去のものとすることを期待します」。
グローバル・フォレスト・ウォッチには自在に新しいデータソースを統合できるため、無知はどんどん解消されていくだろう。今後数年のうちに稼働予定の新たな衛星データも活用されるはずだ。
「世界の森林について、ほぼリアルタイムの情報アップデートを得ることが初めて可能になったのです」と、Googleのムーアは言う。「これは、過去に一切前例のないことです」。
「しかも、発射予定の新たな衛星がいくつもあるので、即時性とデータ解像度はさらに向上されるはずです」
グローバル・フォレスト・ウォッチが明らかにした、過去12年間のパラグアイの深刻な森林減少
また、グローバル・フォレスト・ウォッチは現在のトレンドであるユーザー作成コンテンツとクラウドソーシングを活用した機能も備えている。ユーザーはシステム管理者に写真や報告を送信し、森林破壊を行ったり森林保護に失敗している企業、政府、NGOを指摘することができる。さらに、グローバル・フォレスト・ウォッチはメディアと提携して森林に関するニュース記事をマップ上にタグ付けしている。ツールそのものが無限のニュース記事の情報源となる可能性を秘めており、森林に関する問題への関心を大いに高めるはずだ。
「ノートパソコンやスマートフォンさえ持っていれば、誰でもほぼリアルタイムのデータが入手できる。10年前には想像もできなかったことです」と、世界資源研究所所長兼CEOのアンドリュー・スレーターは言う。「インドネシアの大統領が森林管理の優れた法律を制定したとしても、カリマンタンでリアルタイムに何が起きているかを知ることはきわめて困難でした。いまやそれが可能になったのです」。
2000~2012年の間の樹高および森林の増減を示したグローバル・フォレスト・ウォッチのマップ