シエラレオネ近海を航行する台湾船籍の漁船Yu Feng。このあと密漁容疑で米国沿岸警備隊とシエラレオネ政府当局に拿捕された。写真: U.S. Department of Defense/Petty Officer 2nd Class Shawn Eggert, U.S. Coast Guard.
国際海洋法裁判所は4月、船籍国は漁船の行為に関して海外操業も含めて責任を負うとの裁定を下した。その内容は、「船籍国」は認可した船舶が外国の法令に従うよう「適切な配慮」をしなければならない、というものである。これに違反した場合、船籍国は、その船舶が違法・無報告・無規制(IUU)手段で漁獲を行った国から提訴される可能性がある。
例えば、ドイツ船籍の船がガンビアで許可された以上の漁獲を行い、EUがそうした違反を防ぐ手段を講じていたことを証明できない場合、ガンビアはEUを訴えることができるのだ。
この裁定は、助言的意見 として地域漁業委員会(SRFC)が2013年におこなった申し立てに応じて下されたものだ。SRFCは西アフリカ諸国(モーリタニア、セネガル、カーボベルデ、ガンビア、ギニアビサウ、ギニア、シエラレオネ)の漁業管理と国家間協力を管轄している。
「この海域の漁獲の半分は違法です」と、SRFC政策・法令部門責任者、ディエナバ・ベイエ・トラオレはmongabay.comのインタビューで語った。
外国籍のトロール船は、EU、ロシア、中国、韓国などからはるばる西アフリカ沖にやってきて、サーディン、ボラ、サバなどの小型の外洋性魚類を狙う、とトラオレは言う。二国間合意で 認められた以上の漁獲 を行う船は多い。無許可操業を行う漁船もある。
「排他的経済水域内に外国船が来ていることを船籍国に報告しても、なんの返答もありませんでした。そこで国際海洋法裁判所に法的支援を求めたのです」
IUU漁業は西アフリカで特に多いとされているが、決してこの地域だけの問題ではない。2009年の 最新の包括的推定 では、IUU漁業は世界経済に毎年100億~235億ドルの損害を与えている。
国際海洋法裁判所は、国連海洋法条約(UNCLOS)の批准国が紛争解決を行うことができる4つの司法機関のひとつである。UNCLOSは1982年の署名開始以降、167の国と地域が批准しており、中国やEUも含まれる。米国は批准していないが、強い発言力を持っている。
UNCLOSの重要な規定としては、沿岸国の海岸線から12カイリの海域を「領海」とすること、沿岸国が乗っている大陸棚および領海基線から200カイリの海域を「排他的経済水域」とし、天然資源の保全と利用に関する主権的権利を認めることがある。
シエラレオネの漁村トンボで船の手入れをする地元の漁師たち。西アフリカ諸国は違法・無報告・無規制漁業を行う外国漁船に悩まされている。写真: BBC World Service.
国際海洋法裁判所の助言的意見は、船籍国は「自国籍の船舶をSRFC加盟国が定める法令に従わせるため、法執行などの必要な手段を講じなければならない」とし、またIUU関連の違反行為の報告を調査しなければならないとした。
裁判所はさらに、船籍国が認可を発行した船舶に対し「法執行」や「行政管理」を含む「適切な配慮」を行わない場合、「SRFC加盟国は、排他的経済水域内でIUU漁業を行う船舶の違反行為について、船籍国の責任を問うことができる」とした。
また、裁判所の裁定によれば、SRFC加盟国は共有する水産資源の持続可能な管理の実現のため協力しなければならず、また需要の高いマグロ魚種に関しては、SRFC加盟国は排他的経済水域内で漁業を行う船籍国に協力を要請する権利を持つ。
この助言的意見は、「裁定の適用範囲はSRFC加盟国の排他的経済水域に限定される」としている。しかし、オブザーバーのなかには、より広範囲に適用されるとの解釈もある。
「国際海洋法裁判所は新たな法令をつくったわけではなく、漁業に関する現行法を明確化したのです」と、WWFインターナショナル海洋プログラムマネージャー、ジェシカ・バトルはmongabay.comに語った。バトルによれば、この裁定はUNCLOSの定義する「船籍国」の義務を、すべての条約批准国に対して再確認し、明確化したものであり、本件の当事国だけにあてはまるものではない。
「これは世界的に影響力を持つ裁定です。船籍国は、自国の船に現地の法令を遵守させなければなりません。これを守らない場合、違反の内容に従って、国際海洋法裁判所、国際司法裁判所、仲裁裁判所に提訴される可能性があります」と、バトルは言う。
WWFは裁定に至る審議の過程で2つの法廷助言書を提出しており、プレスリリースで裁定を賞賛した。
UNCLOS批准国の一部は、裁定とその影響について異なる見方をしている。審議前に裁判所に提出された声明文書において、EUは、そもそもSRFCの要請が定義上適格であるかに疑問を呈した。また中国は、国際海洋法裁判所は紛争の仲裁の役目を担うだけで、「助言」や「意見」を示す権限はない、とする 声明を発表 している。こうした見解の相違は、この裁定がつぎに法的根拠として採用された際に問題となるだろう。
他方、SRFCは今後、水産資源の持続可能な管理に関する裁定にしたがって漁業協定を修正する、とトラオレは述べた。また、SRFCが排他的経済水域内で違法操業を行う外国漁船にどう対処するかといった補足事項も、「まもなく」決定されるという。
文献:
- Agnew D.J., Pearce J., Pramod G., Peatman T., Watson R., Beddington J.R., et al. (2009) Estimating the Worldwide Extent of Illegal Fishing. PLoS ONE 4(2): e4570.