ブラジルアマゾンのマミラウア持続可能開発自然保護区で育つカシューナッツ
写真:P. J. スティーブンソン
5月6日ニューヨークの国連森林フォーラムで新たに発表された報告書によると、森林は世界の飢餓の軽減に役立つ可能性があるという。
これは大胆な主張だ。そして、国際森林研究機関連合(IUFRO)が発表したこの報告書は、この大問題にひるまず取り組もうとしている。同報告書によれば、約8億5百万人―世界全体の9人に1人―が、主にアフリカとアジアで栄養不足の状態にある。同時に、世界の12億から15億の人々が、食事や生計のすべて、あるいは大部分を森林に依存している。
したがって、もし森林依存人口の多い国々が、多様な働きを持つ樹木の植林を、政策や土地使用方針を通して援助することで、食物、木材、薪、薬剤、そして様々な生態系サービスを提供すれば、全ての人に安全で栄養豊かな食を確保することに大きく貢献できるはずだ。ただし、この報告書は食糧安全保障に対する森林の貢献度の現状または潜在的可能性を数値で示してはいない。
森林に基礎を置く食料生産の利点がよりよく知られるようになると同時に、従来の農業によって、人口増加にともなう全世界的な飢餓を回避するには限界があることが、明らかになりつつある。この報告書は、国連食糧農業機関の研究を引用し、従来の農業は、栄養の多様性に乏しい偏った食事を生み出しやすく、貧しい人々を食糧価格の変動にさらし、長期的には生態系に問題を引き起こす、としている。
しかし、アグロフォレストリーのような、森林と樹木に基礎を置く農業は、従来の農業を補完し、地球上の最も災害をこうむりやすい地域の人々に対し、よりよい食糧安全保障と栄養を確実に提供できる。ケニアのナイロビにある世界アグロフォレストリー・センターの社会科学者で、報告書の著者の一人であるスティファ・マクムリン氏は、mongabay.comにメールで送られた声明の中でこのように述べた。
シェードグロウン(木陰栽培)コーヒーに馴染みがあるなら、アグロフォレストリーがどんなものかはお分かりだろう。果樹や他の有用な樹木を植え、選択的に除草し、その他にも農民が畑を手入れし、作物を輪作するように森林を管理することにより、世界中の人々は、いろいろなやり方で、天然林に類似した耕作地をつくりあげてきた。これには、多様な動植物に適した生息環境の形成も含まれる。
ベトナム、キャットバ島の森林と農地からなるモザイク状景観 写真:テリー・サンダーランド |
ボルネオ島にあるインドネシアの州の一つ、西カリマンタン州のある森林耕作地―現地名では「テンバワン」―には、44種の異なる樹木が生育し、うち30種から食用可能な産物が得られる、と報告書は述べている。薪炭材や、狩猟対象動物を誘引する樹木やその他の植物が植えられた森林耕作地もあるという。
マクムリン氏は、森と樹木に基礎を置く農法から直接的に得られる利点を指摘している。例えば、樹木からは果実、葉物野菜、ナッツ、種子、食用オイルなど、食の多様化に役立つ、極めて栄養に富んだ食用作物が産出される。こうした食物は、野生動物の肉、魚、昆虫といった、やはり重要な森林食物源と同じく、季節による食物や栄養のギャップを埋める役にたつものだ、と同氏は述べている。
「一年生作物と比べ、樹木は抵抗力があるため、干ばつの際に樹木性食物は重要な役割を果たします。食糧不足の時、特に主要産物が不作の場合、あるいは収穫前に、飢餓を乗り越えるのに役立つのです」と、彼女は言う。
マクムリン氏によれば、森林と樹木に基礎を置く農法は、間接的にも人々に恩恵を与える。例えば、食糧を買うための収入源となる、などだ。
報告書によれば、例えばアフリカのサヘル地域では、植林により、「貧しい農民たちは、1980年代までに半砂漠と化していた何百万エーカーもの土地を、より生産性の高い土地に変えた」。現在、樹木は、同地域の平均世帯収入の80パーセントを占めている。これは主に、シアナッツの栽培によるものだ。報告書が言う「シア公園地帯」で栽培されるシアバターノキ(Vitellaria paradoxa)は好ましい形質のものが選択され、間引かれた木は薪や建築用に使用できる。また人々は公園地帯で家畜や主食作物を育てている。
カメルーンの森林で生育するカカオの木 写真:テリー・サンダーランド |
もちろん森林は、ミツバチなどの受粉媒介者などを始めとする、従来の作物生産に欠かせない生態系サービスを提供する。
マクムリン氏と報告書の共著者らによれば、アグロフォレストリーを、その10パーセント以上が樹木でおおわれている農地、と定義した場合、世界全体の農地の43パーセント以上が、これに当てはまるという。特に顕著なのは、中央アメリカ、南アメリカ、東南アジアで、これらの地では全農地の半分以上がアグロフォレストリーと考えられている。
結局のところ、共同体による森林管理の欠如や、そしてもちろん伐採により、森林の食糧安全保障の強化能力は制限されてしまう。多くの国では、森林管理の権限は、様々な政府機関と行政管轄区に分断された状態となっている。
「樹木産物や樹木の機能を食糧安全保障や栄養と結び付ける、複雑で重複し相互に関連し合うプロセスは、現在地球的レベルでも、国々のレベルでも、林業、農業、食糧あるいは栄養と関連した戦略に適切に反映されていない」と、報告書の著者らは述べている。これにより、農耕地と森林は行き過ぎた破壊を受け、その生産性が制限を受けている。
気候変動もまた、アグロフォレストリーの生産性および従来の農業の両方に対する脅威となっている。
「大規模な作物生産は、異常気象現象にきわめて脆弱ですが、そうした異常気象は気候変動によってより頻繁に起こるようになります。科学的知見によれば、樹木に基礎を置いた農業は、そのような災害に対し、はるかに良く順応できます」。報告書を書いた様々な研究者からなる国際森林研究機関連合(IUFRO)の全地球森林専門家パネル戦略のコーディネーター、クリストフ・ウィルドバーガー氏はプレスリリースの中でこう述べた。
「私たちはすでに、森林が気候変動の影響を緩和するうえで重要なことを知っています。この報告書は、さらに森林が、飢餓を緩和し、栄養状態を改善するうえでも大切であることを明確に示しています」
引用:
- Vira, B., Wildburger, C., Mansourian, S., eds. (2015). Forests, Trees and Landscapes for Food Security and Nutrition. IUFRO World Series Volume 33.