エトピリカ。アラスカ海岸国立野生生物保護区にて。本種はロシア極東沖のサケ・マス漁用流し網に頻繁に混獲される。写真:Steve Ebbert / USFWS
2015年7月1日、ウラジミール・プーチン大統領はロシアの経済水域における流し網漁を禁止する法案を成立させた。
流し網漁は、水中ではほとんど目に見えない壁のような網を漂わせる漁法であり、網の高さは12m、長さは数kmに及ぶ。流し網は、魚のえら(gill)を引っかけて漁獲する刺し網(gillnet)の一種であり、主に大きな魚群を対象に使用される。流し網は漁獲対象ではない海洋生物の混獲で悪名高く、ネズミイルカ、イルカ、ウミガメに加え、環境保護団体バードライフ・インターナショナルによれば、年間推定40万羽の海鳥が流し網に捕えられている。流し網の使用は多くの国々の領海内で禁止または規制されており、公海での使用は1992年に禁止された。
ロシアでは、極東部で同国と日本の漁師がサケ・マス漁に流し網を使用している。禁止の理由のひとつは、流し網のせいで漁獲が減っている、ロシア沿岸の他の漁法を利用するサケ・マス漁師の取り分を増やすためだとされている。この法律は2016年1月より施行された。
) 流し網に混獲され死んだエトピリカ。ロシア・クリル列島(千島列島)にて。年推定14万羽の海鳥がロシアの排他的経済水域内で流し網の混獲により死亡している。流し網を禁止する新法は、海鳥やその他の海洋生物にとって朗報だと歓迎されている。写真:グリーンピース / Vadim Kantor
バードライフ・インターナショナルの推定では、毎年この海域で流し網の混獲によって死亡する海鳥の数は14万羽にのぼり、世界最悪の犠牲が生じている。とくに犠牲になっているのは、エトピリカ(Fratercula cirrhata)、ハシボソミズナギドリ(Ardenna tenuirostris)、ハシブトウミガラス(Uria lomvia)、エトロフウミスズメ(Aethia cristatella)などだ。
鮮やかな模様のイシイルカ(Phocoenoides dalli)やクラカケアザラシ(Histriophoca fasciata)、カマイルカ(Lagenorhynchus obliquidens)などの海生哺乳類も、流し網漁禁止の恩恵を受けると、同団体はいう。
ほかの環境保護団体も禁止を歓迎している。「流し網漁の禁止は、ロシア極東部の鳥類、サケ・マス類、ネズミイルカ類の保全に関心をもつすべての人にとって、大きな勝利です」と、WWFカムチャツカ・ベーリング海エコリージョン事務局の海洋プログラムコーディネーター、セルゲイ・コロステレフ氏は 声明 で述べた。WWFは、長年にわたってこうした禁止措置を訴えてきた。
ハシブトウミガラス。本種もロシアの経済水域内でサケ・マス漁用の流し網に頻繁に混獲される海鳥だ。写真:Josh Keaton, NOAA/NMFS/AKRO/SFD. |
一方、禁止法によってロシアと日本の間には緊張が生じたと報じられている。日本の、とりわけ北海道の漁業者は、1990年代からロシアの経済水域で流し網を使ったサケ・マス漁をおこなってきた。
日本の菅官房長官は記者会見で法案成立について「極めて残念だ」と言及したと、モスクワ・タイムズ は伝えている。同紙や他のメディアの報道によれば、日本の損失額は2億ドルにのぼる見込みだ。
Austronesian Expeditions.