- わずか約2800頭のスマトラゾウ(Elephas maximus sumatranus)は絶滅寸前だ。
- 目撃の希少さと、ゾウの生息地が狭く孤立しているため、スマトラゾウの個体数データは集めることが極めて難しく、保全への取り組みを困難にしていた。
- ゾウの糞のDNAを解析するという独特な技術にもとづいた新たな研究は、最も多くのゾウが生息していることで知られる、インドネシア・スマトラ島中央部のゾウ個体数の評価を与える。
注意:以下のいくつかの画像にはショッキングなものが含まれています。
多く見積もっても約2,800頭のスマトラゾウ(Elephas maximus sumatranus)は絶滅寸前だ。また、目撃の希少さとゾウの生息地が狭く孤立しているため、スマトラゾウの個体数データは集めることが極めて難しく、保全への取り組みを困難にしていた。ゾウの糞のDNAを解析するという独特な技術にもとづいた新たな研究は、最も多くのゾウが生息していることで知られるインドネシア・スマトラ島中央部のゾウ個体数の評価を与える。
Mongabay.comの学術雑誌である Tropical Conservation Science に掲載された新たな研究は、保全計画に役立つゾウ個体数の基本データを確立するため、島全域に渡る取り組みの一環となっている。ブキ・ティガプルにおけるスマトラゾウの過去の個体数推計のほとんどは、古すぎるか信頼性が無く、新しい評価の必要性を明確にしていると、著者たちは書いている。
![A group of Sumatran elephants searches for food in a pulpwood concession in the RiauJambi survey area of Bukit Tigapuluh. Photo by Frankfurt Zoological Society / Alexander Moßbrucker & Albert Tetanus.](http://mongabay.com/wp-content/uploads/2015/10/tcs-sumatran-elephants1.jpg)
「間違いなく、情報のみではゾウを絶滅から救うことはできない。しかし、国と地域の不完全かつ古いデータを基にした保全戦略は、不十分な保全資金でさえも適切に割り当てられていないことや、保全に関する重要なニーズや機会が見落とされるかもしれないため、失敗するだろう」と、研究論文は述べる。
研究者たちは新鮮なゾウの糞を、2つの900 km2の調査区域 (研究者たちはこの地域の全てのゾウがここを通過すると確信している) に設けられた標本抽出ブロックから集めた。糞のサンプルを「人間の科学捜査に用いるのと同じような方法」でDNA解析することによって、ほとんどの場合サンプルを残していったゾウの性別や個々の特性を確定することができたと著者たちは書いている。研究論文によると、この方法はかつてアジア本土とアフリカでゾウの個体数を測定することに成功している。研究者たちは糞のサイズによってゾウの大まかな年齢も確定することができた。
これらの解析から、研究者たちはブキ・ティガプルの中で遺伝的にも地理的にも明確に異なった2つのスマトラゾウの亜集団を特定した。そのうちの1つはスマイ区域の99頭のゾウたちで、もう1つはリアウジャンビ区域の44頭のゾウたちだ。これらの結果は、2009年に2カ所のほぼ同じ区域でゾウの糞を簡単に調査した研究結果と概ね一致している (研究者たちは2009年の研究は彼らの研究より正確性に劣るものの信頼できると考えている。)。
![Part of a larger elephant herd drinks and bathes in the Sumai area of Bukit Tigapuluh. Photo by Frankfurt Zoological Society / Alexander Moßbrucker & Albert Tetanus.](http://mongabay.com/wp-content/uploads/2015/10/tcs-sumatran-elephants2.jpg)
新たな研究はブキ・ティガプル地域のゾウの個体数密度が非常に低いことを明らかにした。例えば、ゾウの個体群密度が低いスマトラでは平均して1km2あたり約0.15頭の個体数であるが、ジャンビ区域は1km2あたり0.05頭であった。
一般的にゾウは長命な動物のため、スマトラゾウの亜集団には高齢のゾウの比率が高い。しかし、リアウジャンビにおいて、研究者たちはあらゆる年齢層のゾウを均等に観測し、スマイでは15歳未満のゾウが明らかに多かった。しかし、これは必ずしもベビーブームの証拠というわけではない。「若い集団は必ずしも個体数の回復を意味しないかもしれない。その代わり、我々がブキ・ティガプル地域のケースで疑っているように、老年層の大幅な減少のサインということも有り得る。」と研究は述べている。
![Forest destruction, one of the main problems for elephant conservation in Bukit Tigapuluh. Photo by Frankfurt Zoological Society / Alexander Moßbrucker & Albert Tetanus.](http://mongabay.com/wp-content/uploads/2015/10/tcs-sumatran-elephants3.jpg)
同様に、DNAサンプルの分子的な雌雄判別は興味深い数値を明らかにした。通常、ゾウの個体群はオスとメスの出生率が同じだが、ブキ・ティガプルではメスの子どもよりオスの子どもの方が2倍多かった。さらに、老年層ではその反対方向に大きく偏っており、研究によるとメスが大多数を占め、オスはその地域全体でたったの3頭しか発見できなかった。研究論文は、高齢の(特にオスの)ゾウの減少が、違法なゾウの殺害を暗示しているかもしれないと示唆している。
ブキ・ティガプル地域はわずかなスマトラゾウしか残っていないにもかかわらず、「インドネシアでのゾウの保全にとって最も重要な地域の一つだ」、と著者たちは書いている。スマトラ島中央部において100頭以上のゾウが生息していると考えられているのは、ブキ・ティガプル以外ではたった一つの地域(リアウ州のテッソニロ地域)だけであり、そのことがブキ・ティガプルの保護をより一層緊急なものにしている。
研究論文は、ブキ・ティガプルのゾウ保全に対する二つの主要な障害を特定している。それは2つの亜集団の孤立が近親交配のリスクを上昇させること、そして偏った年齢と性別層が個体群の繁殖能力を損なうことだ。
![Investigators conduct a postmortem on a poisoned adult female elephant. Photo by Frankfurt Zoological Society / Alexander Moßbrucker & Albert Tetanus.](http://mongabay.com/wp-content/uploads/2015/10/tcs-sumatran-elephants4.jpg)
研究論文によると、ブキ・ティガプルのゾウが直面する深刻な保全上の課題は、人間による象牙を狙った違法な殺害と、ゾウによる作物荒らしを巡る対立の結果としての違法な殺害だ。著者たちは、「我々の研究で観測された個体群動態における極端な歪みは、単なる偶然や死亡率の自然変化によって引き起こされたとは考えにくい。」と言及している。森林警察による調査は2008年から2014年の間に17頭のゾウが人間によって殺されたと記録した。
しかし、生息地の消失がゾウに対する最大の脅威だ、と研究論文は強調する。「スマトラゾウの絶滅寸前の状態は、主に大量の生息地破壊によるもので、これは少なくとも15の地域でゾウの局所的な絶滅をもたらした。」と著者たちは書いている。ブキ・ティガプルでは、原生林のほとんどは私有農地、石炭鉱山、ゴムノキのプランテーション、パルプ材のプランテーション、そしてかつて伐採地だった場所に取って代わられた。これらはゾウの亜集団を孤立させる原因となるパッチ状の生息地をもたらした。
![Sumatran elephants, photo by Rhett Butler.](http://mongabay.com/wp-content/uploads/2015/10/sumatra_9227.jpg)
研究論文はいくつかの保全戦略の推奨で締めくくられている。著者たちは、近親交配を削減するために、2つの亜集団間の地理的障壁の通過性を増加することと、外部の集団からゾウの個体を導入することを薦めている。ゾウの殺害を防ぐことは明白な優先事項であり、研究論文はより厳しい法的取り締まりが必要になる旨を示唆している。「ブキ・ティガプルにおける違法なゾウ殺害の長い歴史にもかかわらず、(中略)有罪判決となることは極めて稀だ。調査改善と法的処置が必要とされる。」と研究論文は述べる。
ゾウの生息地保全に関しては、「集中的に使用される農地で、ゾウと人類の共生は可能ではないかもしれない。しかし、ブキ・ティガプル国立公園を取り囲む広大で実りある森林地が潜在的に安全な生息地を提供するかもしれない。」と著者達は書いている。そこでは、「野生動物に配慮した管理が(中略)地域の大部分を適切なゾウの生息地に変えるかもしれない。」
![Sumatran elephants in Bukit Barisan Selatan National Park. Photo by Rhett Butler.](http://mongabay.com/wp-content/uploads/2015/10/sumatra_9281.jpg)
![Sumatran elephant in North Sumatra Indonesia. Photo by Rhett Butler.](http://mongabay.com/wp-content/uploads/2015/10/sumatra_9203.jpg)
![Sumatran elephant in North Sumatra Indonesia. Photo by Rhett Butler.](http://mongabay.com/wp-content/uploads/2015/10/sumatra_9220.jpg)
引用
- Moßbrucker, A.M., Apriyana, I., Fickel, J., Imron, M.I., Pudyatmoko, S., Sumardi, and Suryadi, H. (2015). Non-invasive genotyping of Sumatran elephants: implications for conservation. Tropical Conservation Science 8(3): 745-759. Available online: http://www.tropicalconservationscience.org/
訂正 Marrie Oba