- 北東カンボジアの物議を醸しているセサン下流第2ダムの建設は約30%が完了した。
- ダムは、主に希少種の生息地と5,000人の人々の居住地である森林のうち、30,000ヘクタールを水没させるだろう。
- 科学者たちは、400メガワットを発電する8億1600万ドルのダムは、回遊魚の個体数と78,000人の人々の食料供給を削減するだろうと推定する。
カンボジア政府は、セサン下流第2ダムの水没予定地から5,000人の村民の移住を始めた。カンボジア北東のストゥントレン州で物議を醸しているそのプロジェクトは、巨大なメコン川の最も重要な支流のうちの2つである、セサン川とスレポック川の合流地点の下流1マイルに満たない場所に位置する。
流域内のコミュニティは、ベトナムのヤリ滝ダムのような既存の上流のダム建設の結果、洪水、漁獲の減少、その他の問題を抱えており、こうした経験からダムが彼らの生計手段にどのように影響を与えるかを学んでいる。このことは建設地の上流・下流両方の沿岸のコミュニティにおいて、セサン下流第2ダムのプロジェクトに対する広範囲に渡る反対を募らせた。
8億1,600万ドルを費やす400メガワットのダムは、2012年12月にカンボジア内閣により最初に承認された。2013年2月には中国の国家開発銀行からの海外融資が承認され、プロジェクトに事実上のゴーサインが出た。
ダムの貯水は30,000ヘクタール以上の土地の水没を伴い、そのほとんどは、1,200ヘクタールのコミュニティの農地、居住地、自家菜園を含む森林だ。カンボジアのNGOのグループ、The Rivers Coalitionは森林伐採、特に価値のある樹種の伐採は、2013年4月から始まったと報告した。それ以降、貯水エリアの範囲を超えた違法伐採の報告が頻繁になった。建設地はコープレイ(Bos sauveli)、アジアゾウ(Elephas maximus)、トラ(Panthera tigris)、ターミンジカ(Rucervus eldii)、ウンピョウ(Neofelis nebulosa)、そしてアジアクロクマ(Ursus thibetanus)などを含む、希少種の生息地だ。
このプロジェクトは、カンボジア国内で環境影響評価(Environmental Impact Assessment: EIA)を考慮した最初のプロジェクトのうちの一つだ。環境保護論者たちは、これをカンボジアのインフラ建設の承認プロセスにおける重要な進歩として歓迎した一方で、セサン下流第2ダムのEIAは不十分として批判した。例えば、EIAでは106の魚種をスレポック川とセサン川で確認したが、専門家によるとこれは過小評価だ。2011年の レポート はスレポック川で240種、セサン川で133種の魚を記録している。
2012年の米国とカンボジアの研究者による 研究 では、ダムは2つの川で魚のバイオマスを9%以上減らすだろう、と推定した。このことは、主に魚の回遊の阻害によって、ダムの上流と下流両方の地域の生計手段への波及効果を伴う。ダム建設者は魚道を組み込もうと努力しているものの、批評家たちは、これでは回遊魚の減少を防ぐには不十分だと言う。
環境保護団体インターナショナル・リバーズの東南アジアプログラムディレクターのAme Trandemは、ダムは生計手段を根底から覆される人々にとって深刻な結果を伴うものであり、EIAはその影響がどれだけ広範に影響するかを過小評価している、とmongabay.comに語った。
「EIAはダムの建設地近辺で何が起きるかのみを見ており、上流や下流は見ていない。我々にわかることは、このプロジェクトによりはるばるメコン川から来る魚と、上流・下流に回遊する魚が影響を受けるであろうことだ。そのため、上流・下流にはなんの補償も受けられない人々がたくさんいる。」と彼女は言った。
カンボジアのRivers Coalitionの2009年の レポート は、ダム建設の結果、86の村に住む38,000人以上の人々が「漁業資源の大部分へのアクセスを失うであろう」ことと、78,000人の人々が漁業資源へのいくつかのアクセスを失うであろうことを発見した。EIAは漁業資源への影響は考慮すべきであるということと、上流に住む人々の90%(1,648余りの家族たち)が漁業で生計を立てていることを認めただけだ。
ダムはカンボジアのダム建設の経験のない企業であるロイヤルグループと、中国のダム建設企業のハイドロランチャン国際エネルギーの合弁企業によるものだ。ダムへの出資の51%を持つハイドロランチャンは、中国の発電の巨大企業であるHuaneng Corporationの子会社だ。
プロジェクトの環境と社会への影響に関する広範な懸念にも関わらず、ダム建設は急速に進められている。「ダム建設は30%が完了した。基礎が敷設され、発電所も完成した。」とTrandemは言った。
2017年にダムが完成するまで2年かかるものの、貯水池の樹木と家を片付けるために、現在当局は人々を移住させたがっている。先月、州当局は、地域住民に対して即刻立ち退くよう通知を送付した。TrupとSre Sanoukの二つの村の移住は現在進行中であり、建設業者は財産調査に基づいた土地と生計手段の損失に対して補償を支払っている。
6月30日の州都ストゥントレンでのミーティングでは、ストゥントレン州の副知事Doung Povが、合計854の家族が6つの村から移住する予定だ、と言った。彼らは全員が移住の承諾と引き換えの補償を提案されているが、Povは、254家族がまだ補償について抗議を申し立てている、と述べた。
「多くの人々が未だに移住を拒否しており、引き続き移住に反対するだろう」とTrandemは言った。
コミュニティと協働している人権活動家によると、これは、住民が(移住地や家と同様に)提案されている補償のレベルに満足していないためだ。活動家は、NGOと協働する全ての外国のグループと個人に政府への登録を求める新たなカンボジアの法律によって、彼もしくは彼女のグループが活動停止にされるリスクを避けるため匿名をリクエストした。
コミュニティは、移住により彼らの伝統的な生計手段や文化のアイデンティティも損なわれることを懸念している、と活動家は言った。
退去させられた人々は3つのオプションを提示された。一つ目は、ダム建設地に近い国道沿いに広がるいくつかの移住地の50m×20m区画の土地、コンクリート製又は木製の家、および5ヘクタールの農園。次に、移住地の家付きの土地に6,000ドル。そして、10,000ドルから12,000ドルまでの現金だ。追加のインセンティブとしては、移住後初期の米と燃料の供給が含まれる。
家族たちは果樹のようなその他の食料生産に関する資産の損失についても苦情を申し立てることができる。しかし、いまだに人々は提案された補償率について不当な扱いを受けていると感じている。例えば、マンゴーの木一本の損失に対して企業は20ドルから30ドルを補償する。しかし、村人たちは、その木が実をつけたであろう幾年にも渡って果実を売ることで、それ以上に稼ぐことができる、と匿名の活動家は言った。
最近移住地を訪ねたその活動家は、コミュニティは土壌の生産性についても懸念を持っている、と言った。「土地の質はとても悪い。これでは作物を育てられない。おそらく多少は育つだろうが、品質は非常に低いだろう。だから今まで誰もあそこに住んでいなかったのだ。」と活動家は言った。
その土地の面積も、コミュニティが生活するのに十分な食料を育てるのに必要だと主張するものより小さい。「彼らは多くの動物と家畜を所有していたが、新たな土地は牛やバッファローが草を食べるスペースが無い。彼らは、家がとても小さく他の家との距離が近いため菜園のスペースが無いと感じている。」と活動家は言った。
最も大きな抗議のうちの1つは、木製又はコンクリート製の家に関することだ。これらは、退去させられた人々が、彼らの以前の家より質も大きさも劣るものだと考えており、書面による保証もついていない。プノンペン・ポスト は7月27日に、政府がこの心配について回答したことを報じた。鉱工・エネルギー省の州長官Ith Praingは、「私は、家が万が一倒壊した場合について一年間保証すると約束するが、これは書面によるものではない(中略)もしも問題があれば、彼らは省に抗議ことができる。私が、これはいかさまでないことを約束する。」と述べ、彼が新たな家を保証するつもりだと言った。
2月に出版された レポート は、ハイドロランチャンが糯扎渡ダムによる移住で中国の人々に対して支払った補償が、セサン下流第2ダムに割り当てられた量よりも多いことを見出した。「セサン下流第2ダムにより影響を受ける人々に現在提案されている補償のパッケージは、個人ベースでの糯扎渡ダムの移住予算の23%しかない。」とレポートでは述べられている。
そのレポートは、この違いをカンボジアでは補償を要求する政府規制がないためだと考えている。中国は移住規制を2006年に承認したため、ダムによって影響を受ける人々は(カンボジアでは企業の裁量に任されている放牧地のような)全ての損失について要求できるより良い立場にいた。
セサン下流第2ダムは、カンボジア政府により既に建設された、もしくは計画されている電力需要(これは2020年までに毎年17.9%で増加すると予想される)を満たすための18のダムのうちの1つだ。ダムは最大で400メガワットの電力を発電すると計画されているが、ダム建設者達は乾季には発電が100メガワットまで減少することとを容認した。このことは、この計画には生命と生計手段を混乱させるほどの価値がない、という批判を引き起こした。
メコン川委員会(Mekong River Commission: MRC)はメコン川流域に接続する全てのダムに関する意思決定を調整する機関だ。MRCが付託された権限は6カ国に渡り、そのうち4カ国が、大口の援助供与国や機関と同様にセサン下流第2ダムについて懸念を提起している。
ベトナムは、ダムが多くの堆積物をせき止めるであろうことから、特に関心を持っている。こうした堆積物はベトナムの何百万もの人々が生計を頼る肥沃なメコン・デルタ地域に栄養を与えるが、下流に流れていく量はダムのせき止めによって減るだろう。
「我々はこのダム建設の中止を引き続き求めていく。少なくとも全ての建設を中断することと、このプロジェクトのリスクを十分に評価するために緊急に新たな国境を超えたEIAを実施することを求めていく。」とTrandemは言った。
引用
- Power Engineering Consulting Joint Stock Company 1 Vietnam, Key Consultants Cambodia (2008). Environmental Impact Assessment for Feasibility Study of Lower Sesan 2 Hydropower Project, Stung Treng Province, Cambodia. Phnom Penh, Cambodia.
- Baran E., Saray S., Teoh, S.J., Tran T.C. (2011). Fish and fisheries in the Sesan River Basin ‐ Catchment baseline, fisheries section. Project report. Mekong Challenge Program project MK3 “Optimizing the management of a cascade of reservoirs at the catchment level”. WorldFish Center, Phnom Penh, Cambodia.
- Baird, I.G. (2009). Best Practices in Compensation and Resettlement for Large Dams: The Case of the Planned Lower Sesan 2 Hydropower Project in Northeastern Cambodia. Rivers Coalition in Cambodia, Phnom Penh, Cambodia.
- Ren, I.Y. (2015). Same Company, Two Dams, One River: Using Hydrolancang’s China Domestic Practice to Mainstream Biodiversity, Fisheries and Livelihood Protection in the Lower Sesan 2 Dam Project. Ren, I.Y., Self-published.
- Ziva, G., Baran, E., Nam, S., Rodríguez-Iturbe, I., Levin, S.A. (2012). Trading-off fish biodiversity, food security, and hydropower in the Mekong River Basin. 109(15):5609–5614.