- WAPの調査チームによれば、タイのエンターテインメント施設で飼育されるトラの数は約830頭で、2010年の623頭から増加している。
- レポートによれば、エンターテインメント施設で観光客はトラのすぐそばまで近寄り、トラと自撮り写真を撮れるが、そのトラのこどもは生後2, 3週間で母親から引き離されている。
- トラのこどもたちは1日に何百回も不適切に扱われ、ストレスにさらされ、怪我を負うこともある。
トラと間近でふれあえるのは楽しいかもしれない。けれども、新たな調査により、タイガーツーリズムの裏側の残酷な現実が明らかになった。
トラを見世物にするタイのエンターテインメント業界には動物虐待が蔓延していると、World Animal Protection(WAP)の最新レポートが伝えた。このレポートは、タイのタイガー・エンターテインメントについての初の網羅的調査だ。
WAPの調査によれば、タイのエンターテインメント施設で飼育されているトラの数はおよそ830頭で、2010年の623頭から増加している。
2015年から2016年初頭にかけて、WAPはトラを飼育する主要な17のエンターテインメント施設の立入調査をおこなった。そのなかで、飼育数がもっとも多く、飼育環境がもっとも劣悪だったのが、タイガー・テンプルとシーラチャー・タイガーズーだ。タイガー・テンプルはこのところ論争の渦中にある。
今年5月、タイ警察と野生生物局職員が、タイガー・テンプル敷地内の冷蔵庫から損傷状態のまちまちな40頭のトラの赤ちゃんの死体を発見した。動物福祉上の懸念が深まったことから、野生生物局はタイガー・テンプルにいたトラ137頭をすべて押収した。
エンターテインメント施設では、観光客がトラのすぐそばまで近寄ることができ、トラと自撮り写真を撮れることが売りになっているのを、WAPの調査チームは目の当りにした。そのためにトラの赤ちゃんが生後2, 3週間で母親から引き離されるケースもあった。こうした幼いトラは観光用に見世物にされ、1日に何百回も不適切に扱われ、ストレスにさらされ、怪我を負うこともある。
シーラチャー・タイガーズーでは、10~20頭のトラの赤ちゃんが室内の狭いケージに1日中入れられていた。毎日数百人の観光客がケージのある部屋を訪れ、料金を払って自撮りをしたり、哺乳瓶でミルクを与えていた。
「観光用の見世物として虐待されるトラが調査時点で5年前より207頭も増えていることは、きわめて憂慮すべき事態です」と、WAPの「Wildlife – Not Entertainers」キャンペーン責任者、ジュリー・ミデルクープ(Julie Middelkoop)氏は声明で述べた。「観光客のみなさん、トラの福祉について考えてください。観光業界のみなさん、トラの虐待を宣伝し、そこから利益を得るのをやめてください。トラに近づいたり、トラを抱っこしたり、トラと自撮りができるのは、そのアトラクションが虐待である証拠です。行かないでください」
エンターテインメント施設で横行しているもうひとつの問題が「スピード繁殖」だと、レポートは指摘する。生後数週間で赤ちゃんを母親から引き離し、メスをすぐに繁殖に復帰させることで、メス1頭あたりのこどもの数が増えるのだ。
2つのエンターテインメント施設(シーラチャー・タイガーズー、サムイ水族館タイガーズー)では、火の輪くぐりなどサーカス形式のトラのパフォーマンスもおこなわれていた。
観光用エンターテインメント施設のトラの飼育状況は概してきわめて劣悪だ。多くのトラは清潔な水すらない狭いスペースで飼われていた。一部の個体は、ストレス性の反復歩行や尻尾を噛むなどの問題行動を示した。望ましくない攻撃的な行動をやめさせるため、苦痛や恐怖によってトラを罰することも珍しくなかった。「間違い」を起こしたトラは「絶食」させられることもあったという。
WAPは各国政府に対し、トラのいるエンターテインメント施設を調査し、違法売買や虐待の証拠が見つかった施設は閉鎖するよう要望している。また、TripAdvisorなどの旅行会社には、これらの野生動物エンターテインメントツアーの販売・宣伝をやめるよう呼びかけている。
ミデルクープ氏は言う:「世界最大の旅行サイトTripAdvisorは、いまだに残酷な観光施設の宣伝やチケット販売をおこなっています。トラの受難を終わらせるための取り組みに、旅行会社は大きく貢献できるはずです」