- 2014年に一人の教師がアラスカのビーチに打ち上げられた奇妙な姿のクジラにつまずいた。
- 新種のクジラはツチクジラに似ていたが、それよりも黒く、大きな背びれと特徴的な頭骨を持っていた。
- 最近公表された遺伝的な証拠は、そのクジラは確かに新種であり、南極のツチクジラに最も近縁な種と同じくらい、ツチクジラと異なることを示している。
- アカボウクジラ科の仲間は世界で最も深く(マッコウクジラを超える程)潜水する哺乳類だ。多くの種についてわずかしか研究されていない。
もしも人類が我々の自然界に関する集団的無知についてリマインダーが必要なら、ここに非常に良いものがある。科学者たちはクジラの新種を発見したと確信している。あなたは読み間違えなどしていない。クジラの新種だ。科学者たちはその新たな鯨類を、2014年にアラスカのアリューシャン列島で打ち上げられた奇妙な死体によって特定した。最初、現地の人々はこれをツチクジラ(Berardius bairdii)だと信じていたが、目立った違いのため不審に思い始めた。その後のDNA検査は、その死骸は科学が未だ知らなかった種の可能性が非常に高いことを示した。それは親戚であるツチクジラよりも小柄で黒く、より大きな背びれとはっきりした頭骨を持っていた。
「この種が非常に希少なことは明らかだ。そして我々に、海洋とその最も大きな住人について我々がどれだけ学ばなければならないかを思い出させてくれる。」と、その発見を記載した研究論文の筆頭著者であるフィリップ・モリンは、プレスリリースで述べた。モリンはアメリカ海洋大気庁海洋漁業局(NOAA Fishery)南西漁業科学センター(Southwest Fisheries Science Center)の分子生物学者だ。彼のチームのクジラに関する研究結果は、昨日(2016年7月26日)の Marine Mammal Scienceで公表された。.
2年前にアラスカのセント・ジョージアの小さな集落に打ち上げられた、24フィート(7.3メートル)の動物が新種かどうかを確定するために、モリンと彼のチームは太平洋のアカボウクジラ科から178のDNAサンプルを集め解析した。彼らは、これが確かに長い間ありふれた風景に隠れていた新種だったことを発見した。スミソニアン協会所蔵の標本と、アラスカの高校の体育館に吊るされていた骨格標本を含む8つのDNAサンプルが新種のもので、長く信じられてきたようにツチクジラのものではなかった。このDNAサンプルは、3種は同じ属であるものの、新たなクジラが実はツチクジラよりも南極のミナミツチクジラ(Berardius arnuxii)に近縁であることも示した。
新たなクジラは稀にだが生きた状態で目撃されていた。日本の捕鯨業者(彼らはまだツチクジラを捕鯨している)は長い間この新種を、その黒い体色のため、カラスと呼んでいた。
「日本の捕鯨業者は黒い姿は知っていたが、これが異なる種だとは考えていなかった」、と研究論文の共著者であるエリック・ホイトは述べた。彼は、イギリスのホエール・アンド・ドルフィン・コンサベーション(Whale and Dolphin Conservation)の研究者で、ロシア鯨類生息地プロジェクト(Russian Cetacean Habitat Project)の共同ディレクターだ。
アカボウクジラ科は間違いなく、地球上で最も見つけにくく神秘的な巨大動物だ。科学者たちは現在少なくとも22種を記載しているが、これらのクジラの生態が研究をとてつもなく難しくしている。アカボウクジラ科のクジラは、世界で最も深く潜水する哺乳類で、通常1,000メートル以上潜水し、この圧倒的な深さでのんきに2時間以上餌を食べている。
2014年に、科学者たちは9,816フィート(2,992メートル)に135分以上潜るアカボウクジラ(Ziphius cavirostris)を記録した。現代の原子力潜水艦は2,625フィート(800メートル)以浅で崩壊する上に、マッコウクジラが追跡されたのは、たったの約3,280フィート(1,000メートル)だ。
アカボウクジラ科の新種の行動については、ほとんど全てがわかっていない。しかし科学者たちは、アラスカの死体に紛れもない熱帯のサメの咬傷があるため、(他のアカボウクジラ科の種と同様に)このクジラが一定の時間を熱帯海域で過ごしていると考えている。
科学者たちは、この種がどのくらい希少なのか、あるいは一般的なのかも同様に全くわからない(おそらく前者でないかと考えているが)。保全の話になると、科学者たちは他の世界のアカボウクジラ科に関してわずかしか解明できていない。現在、アカボウクジラとミナミトックリクジラ(Hyperodon planifrons)の2種だけが適切にIUCNレッドリストによって評価されている。2種ともIUCNにより、軽度懸念(Least Concern)と考えれている。しかし、他の20種全てが情報不足(Data Deficient)として記載されており、これは科学者たちが、これらの種の絶滅危惧状況に関する評価を下すための十分な情報を持っていないことを意味する。
アカボウクジラ科がリストに掲載されすらしない他の可能性がある。ちょうど2年前に、他の科学者グループが同様にDNA調査にもとづいてアカボウクジラ科の新種(the pointed beaked whale (Mesoplodon hotaula)を提案した。しかし、現在IUCNはこの種について調べておらず、未だにイチョウハクジラ(Mesoplodon ginkgodens)とまとめて扱っている。.
アカボウクジラ科について全体的にいかにわずかしかわかっていないかを考えると、何がこれらの鯨類を脅かすかを伝えることは難しい。しかし科学者たちは、アカボウクジラ科はソナーに非常に敏感な可能性があり、ソナーが潜在的に大量死を引き起こすと考えている。複数の研究は、重金属のような高レベルの毒性物質をアカボウクジラ科から発見した。これは、おそらく彼らが頂点捕食者であるためだ。また、死んだアカボウクジラ科は、胃の中にプラスティックの破片がある状態でも発見された。2011年に、ニュージーランドの、1頭のアカボウクジラ科のクジラは、一袋のショッピング用ビニール袋を摂取したために 死んだと考えられている。
「新種のクジラを2016年に発見することはエキサイティングだが、これは同様に我々がどれだけわずかしか知らないかということと、これらの種を本当に理解するために、どれだけやらなければならないことがあるかを明らかにした」と、ホイトは述べた。
アカボウクジラ科の新種は、まだ名付けられていない(近縁種と正式に比較した他の研究論文を待たなければならない)。しかし、日本の捕鯨業者が長い間カラスクジラと呼んでいたように、ひょっとしたらこのクジラの名前はBerardius corvisになるかもしれない(訳注:corvisはラテン語でカラスの意)。
引用:
- Dalebout, Merel L., C. Scott Baker, Debbie Steel, Kirsten Thompson, Kelly M. Robertson, Susan J. Chivers, William F. Perrin et al. “Resurrection of Mesoplodon hotaula Deraniyagala 1963: A new species of beaked whale in the tropical Indo‐Pacific.” Marine Mammal Science 30, no. 3 (2014): 1081-1108.
- Phillip A. Morin, C. Scott Baker, Reid S. Brewer, Alexander M. Burdin, Merel L. Dalebout, James P. Dines, Ivan Fedutin, Olga Filatova, Erich Hoyt, Jean-Luc Jung, Morgane Lauf, Charles W. Potter, Gaetan Richard, Michelle Ridgway, Kelly M. Robertson, Paul R. Wade. Genetic structure of the beaked whale genusBerardiusin the North Pacific, with genetic evidence for a new species. Marine Mammal Science, 2016; DOI: 10.1111/mms.12345
- Schorr GS, Falcone EA, Moretti DJ, Andrews RD (2014) First Long-Term Behavioral Records from Cuvier’s Beaked Whales (Ziphius cavirostris) Reveal Record-Breaking Dives. PLoS ONE 9(3): e92633. doi:10.1371/journal.pone.0092633