- 5年間にわたる前例のない実験により、健康な高木が資源(とくに炭素)を他種の樹木と共有することがわかった。
- 植物のあいだの栄養・水・炭素のやりとりを可能にしているのは菌根ネットワーク(地下でともに成長する菌糸と植物の細根)だ。この地下輸送路において、異種の樹木が炭素をやりとりしている証拠は、これまで見つかっていなかった。
- この資源共有は、気候変動のストレスにさらされる森林の存続に重要な役割を果たすのではないかと、研究チームは考えている。
新たな発見により、生態学者は森林生態系についての考え方の転換を迫られた。森林は競合の場というよりも、協力しあい相互依存しあう構造物なのかもしれない。5年間にわたる前例のない実験により、健康な高木は資源(とくに炭素)を他種の樹木と共有することがわかった。この炭素取引を支えるのは、全世界の森林に存在する地下の菌根ネットワークだ。この資源共有メカニズムは、気候変動のストレスにさらされる森林の存続に重要な役割を果たすのではないかと、研究チームは考えている。
「この発見のなにもかもが驚きでした。はじめは共同研究者にも信じてもらえず、根の選り分けにミスがあったのだと思いました」Science誌に掲載された研究結果について、バーゼル大学のタミル・クライン(Tamir Klein)博士は言う。
![View of the study site at the Swiss canopy crane research station in a mixed forest 12 km southwest of Basel, Switzerland. Photo courtesy of Christian Körner and Tamir Klein.](https://news.mongabay.com/wp-content/uploads/sites/20/2016/08/Carbon1.jpg)
生態学者たちは長いあいだ、樹木どうしは栄養や資源をめぐって競合すると考えてきた。樹高と樹齢のもっとも高い木々は、支配者として、周囲の木々から必要な資源を奪っているとされていた。しかし、スイスの温帯林でおこなわれた実験により、樹木のあいだの相互作用は、これまで考えられてきた以上に複雑である可能性が出てきた。樹木は、細根と共生菌という地下の道路網を利用して、隣近所と資源を共有していたのだ。菌根ネットワーク(地下でともに成長する菌糸と植物の細根)が菌と樹木の双方に恩恵をもたらすことは以前から知られていた。菌と植物は、栄養、水、炭素をやりとりする。菌のおかげで植物は土壌からの栄養と水の吸収量を増やすことができる。一方、植物は、光合成によってできた糖を、菌やその他の土壌微生物に与える。菌根ネットワークは森林生態系に不可欠な要素だと研究者たちは考えている。また、隣りあう同種の樹木は、根の物理的統合により、炭素をやりとりすることができる。しかし、いずれの地下輸送路においても、異種の樹木のあいだで炭素のやりとりがおこなわれている証拠は、これまで見つかっていなかった。
![Professional tree climbers ascending one of the five control unlabelled Picea abies trees for sampling of canopy twigs beyond the reach of the crane jib. Photo courtesy of Christian Körner and Tamir Klein.](https://news.mongabay.com/wp-content/uploads/sites/20/2016/08/Carbon2.jpg)
炭素のやりとりを記録するため、研究チームは建設用クレーンと大量の細いチューブを使い、樹齢120年、樹高12mのトウヒの樹冠に炭素13(通常空気中に含まれる炭素12よりも重い同位体)を吸収させた。炭素13は通常の炭素と区別できるので、これを使うことで葉での光合成から枝、幹、そして細根までの炭素の移動を追跡できるというしくみだ。
研究チームは、トウヒが炭素13をみずからの枝、幹、根まで行きわたらせ成長を促すだけでなく、マツ、カバ、カラマツなど近隣の他種の樹木にも、菌根ネットワークを通じて炭素13を分配していることを発見した。これまで高木が炭素の分配にかかわっていることは知られていなかったが、それは高木に炭素13を吸収させる方法がつい最近までなかったためだ。「いちばん近いのは、苗木どうしが炭素をやりとりするという知見でした」と、クライン博士は言う。高木が他種の健康な高木に炭素を輸送するという発見は、あまりに意外で、研究者たち自身が結果を疑うほどだった。
![Researchers used a construction crane to distribute 13C to the tops of spruce trees via tubes. Photo courtesy of University of Basel, research group C. Körner.](https://news.mongabay.com/wp-content/uploads/sites/20/2016/08/Carbon4.jpg)
ミスではないことを確認しようと、研究チームは再び森に入り、慎重に細根を掘り出して、土の中を辿り、供給源の木に至ることを確かめた。炭素13は、まちがいなく炭素13でラベリングしたトウヒの木から、近隣の他種の樹木に移動していた。
これは重要な発見だと、クライン博士は言う。「森林の木々を見る目が変わります。隣近所の木々は、単なる競合相手ではなく、固定した炭素を共有するのです」資源を分配する菌根ネットワークでつながった木々は、樹木のギルドとして、余分な炭素を内部で調整しているとみられる。この実験は温帯でおこなわれ、異種の樹木間の炭素のやりとりを示す初の証拠となったが、「原理的には、菌根菌がある森林ならどこでも、つまり地球上のほぼすべての森林で起こり得ます」と、クライン博士は言う。
現在、気候変動による樹木の枯死が世界的課題となっている。直接の原因は干ばつ、遅霜、森林火災、病気などさまざまだが、いずれも化石燃料の燃焼による地球規模の気温上昇によって深刻化している。ストレスへの反応は樹種によって違うが、木々が菌根ネットワークでつながっていれば、「(近隣の樹木から)余った炭素をもらうことで、生死にかかわるストレスを乗り切れるかもしれません」と、クライン博士は言う。
![Sampling of verified fine roots from overlapping root spheres. Roots were excavated down to 5 cm depth and traced to the trunk of origin. The red arrow denotes the sampling point of fine roots belonging to labelled Picea abies (front) and belonging to neighbouring, unlabelled Pinus sylvestris (rear). Photo courtesy of Christian Körner and Tamir Klein.](https://news.mongabay.com/wp-content/uploads/sites/20/2016/08/Carbon3.jpg)
炭素共有の規模やメカニズムの詳細はわかっていないが、この研究により、森林生態系の機能の複雑性にあらたな階層が加わったといえる。異種の樹木間の炭素共有は、森林管理を改善するうえでも重要な要素であり、気候変動の時代に森林の抵抗力を高め存続させることにつながるのではないかと、研究チームは考えている。
文献:
Klein, T., Siegwolf, R. T., & Körner, C. (2016). Belowground carbon trade among tall trees in a temperate forest. Science, 352(6283), 342-344.