研究：実は、海面上昇がサンゴ礁に地球温暖化を生き抜く手助けをしている

世界的なサンゴの白化現象は、現在強いエルニーニョ現象や気候変動による海面温度上昇のせいで観測史上3番目 (1番目になる可能性が非常に高い) の規模となっている。

科学者たちは今年初め、オーストラリアのグレート・バリア・リーフで調査した500カ所のサンゴ礁の内99%が白化現象に襲われていたことを報告した。サンゴの白化はすでにアメリカ領サモア、フィジー、ハワイ、バヌアツの太平洋全域から、一部のカリブ海、フロリダ南海岸沖、インド洋にわたり影響を及ぼしている。

今回初めて科学者たちは、通常より暖かい海水によってサンゴが組織内に共生する藻類 (サンゴに食物と鮮やかな色を与える) を排出させることで起こるサンゴ礁の白化の様子をビデオにとらえた。

しかしサイエンス・アドバンス誌 に掲載された新たな論文は、地球温暖化による他の影響がサンゴ礁に海水温上昇の中で生き残る手助けをしているかもしれないという結論を出した。「ある程度の海面上昇でも、干満のある岩礁域の極端な温度差を十分に縮小できるため、今後岩礁付近の海洋温暖化を部分的に緩和することができる」と、著者は論文に記している。

地球大気中における二酸化炭素レベルの上昇は、今後100年以上にわたり海洋温度と海洋化学に大きな変化をもたらすだろう。その結果サンゴの白化の頻度と深刻さが増し、岩礁生態系にストレスを与えると科学者たちは言う。サンゴの白化を引き起こす温度異常と熱応力は、外洋域よりも浅い岩礁域で発生する場合が多い。

西オーストラリア大学のRyan Lowe氏が率いる研究チームは、次世紀において海面上昇が浅い岩礁域の日常の温度差にどれほど早く影響を与えられるかを予測するための新たなモデルを開発するにあたり、オーストラリア北西沖のサンゴ礁生態系と世界中の岩礁生態系を調査した。

「温度は岩礁にとって重要な環境要素として広く認められており、極端な温度差は世界中のサンゴ礁群にとって重要なストレス要因の1つとして知られている」と、Lowe氏は 声明で述べた。

しかし浅い岩礁域と外洋域の水温は異なる場合が多いため、今後岩礁域における白化やストレスパターンを予測するには礁環境を正確に把握することが重要である。また水温に関する研究のほとんどは、長年にわたる気候変動やエルニーニョ・南方振動のような短期で発生する気候現象によって起こる海洋温暖化の予測を改善することに力を入れていた。つまり現在科学者たちは、岩礁域 (特に干満の差が著しい岩礁生息地) における海面上昇の影響について予測する能力に欠いているということである。

Lowe氏と研究チームは潮の状態、太陽熱、岩礁の構造などを踏まえて、将来浅い岩礁域における極端な水温差がどのように変化するのかを予測するためのモデリングの枠組みを構成するにあたり、流体力学、水温、干満がある岩礁生息地の海気状況に関する綿密な現場測定を行った。

彼らは大気中における地表面の熱交換が、干潮時の浅い岩礁域に多大な水温変化をもたらしていることを発見した。Lowe氏は研究チームの現場調査によって、オーストラリア・キンバリー海岸沖の岩礁域における極端な水温変化が明らかになったと述べた。水温は1回の潮汐周期で摂氏10度以上も異なり、干潮時の太陽高度が最も高い正午ごろには極度に高くなって岩礁域の海水を暖めた。

つまり海面上昇は局所的に岩礁域の水温をかなり下げることができ、結果としてストレスや白化から岩礁を保護する手助けとなる。

「干満差が大きい海域における岩礁近くの水温は特に高く、これが日々長時間にわたり干潮時の岩礁域を“池”にしている原因である」と、Lowe氏は述べた。「多少の海面上昇でも岩礁域の水温を下げることができ、また海洋温暖化によって暖まった岩礁自体の温度も部分的に下げることができるかもしれない。」

引用元

• Lowe, R. J., Pivan, X., Falter, J., Symonds, G., & Gruber, R. (2016). Rising sea levels will reduce extreme temperature variations in tide-dominated reef habitats. Science Advances, 2(8), e1600825. doi:10.1126/sciadv.1600825