- ジャワ島西部のウジュン・クロン国立公園内に生き残っているジャワサイは約60頭であることが分かっている。
- その国立公園は史上最悪の噴火を引き起こした活火山の一つ、アナク・クラカタウ (直訳するとクラカタウの息子) から狭い海峡を挟んだ向かい側に位置している。
- 公園内のサイ個体群は多くの脅威に直面しているのに、さらに火山噴火によって絶滅へと追い込まれることを研究者らは懸念している。
ルイジアナ州と同じ大きさの土地に、45の活火山と1億4000万人の人々を詰め込んでみよう。これはトム・クルーズが人類を救うという最新のアクションスリラー映画のシナリオだろうか?いや、これはインドネシア・ジャワ島における実際の日常生活である。
地球上で最も人口密度が高い地域の一つであるジャワ島で、ジャワサイ (学名:Rhinoceros sondaicus) は生き残りを懸けて闘っている。IUCNのレッドリストに絶滅危惧IA類として掲載され、残存数60頭あまりのジャワサイは、島の最西端にあるウジュン・クロン国立公園の山林を放浪している。ジャワサイは文字通りでも比喩的な意味でも危険と隣り合わせで暮らしている。
ここは地球上で最も噴火が活発な地域で形成される「環太平洋火山帯」。それにもかかわらず、数百万人の人々が一瞬で全滅させられる火山の近くで暮らしている。理由は簡単で、火山は死をもたらすほどの噴火頻度が低く、さらにある程度の生活も保障してくれるからである。噴火は溶岩、火砕流、泥流によって人々を殺すが、土地に豊かなミネラルいっぱいの火山灰 を与えることで人々に報いている。
残存するジャワサイもまた、この時限爆弾の側で暮らしている。アナク・クラカタウ (クラカタウの息子) はいつ噴火してもおかしくない火山島で、ジャワサイの全個体群が一度の大噴火で永遠に絶えてしまう。いわばサッカー場の真ん中で一番大事にしている陶磁器を守るようなものだ。
ジャワ島の火山は多くの点でジャワサイの運命に影響を与えた。
火山は急速に増加した人口を十分養えるほどの土地の産出力を島に与えた。しかしジャワ島の人口が1900年代初頭から激増した一方で、ジャワサイの個体群は急低下していた。水田が現れた所はどこでも低地熱帯雨林が姿を消した。人々はジャワサイをインド洋へ連れていかず、人口が密集する土地からできる限り遠くのますます孤立したジャワ島の外れ (サイの自然生息地範囲外) へと追いやった。
最後のとりでは、史上最も有名な火山の一つから狭い海峡を挟んだ向かい側のウジュン・クロン。数千万人もの人を支えらえる産出力がジャワ島に備わったことで、ジャワサイは火山島の背後に押しやられた。
1883年8月下旬、火山島「クラカタウ」は限界に達していた。後に広島へ投下された原子爆弾の1万倍という情け容赦ない猛威とともに、クラカタウは噴火した。
その爆発音は40マイル (64キロメートル) も離れた海上の船員の鼓膜を破り、爆心地から3千マイル離れた場所にいた人は朝食のコーヒーから顔を上げた。
高さ100フィート (約30メートル) の津波はウジュン・クロンの海岸を浸水させ、荒れ地を残した。この地帯が回復に向かい始めた頃、ジャワサイは島の至るところで脅威にさらされながらも再定住した。ウジュン・クロンにはあまり人が戻らかっため、今日までジャワサイの安息地として残っている。
火山はジャワサイに命綱を投げたが、またその存在がダモクレスの剣のようにサイの頭からはなれない。クラカタウが噴火した後、噴出物は海面下で着実に堆積し始めた。アナク・クラカタウは1920年代に海面上へと頭を突き出し、現在では特大の島と化している。すでに1,000フィート (300メートル) を越え、毎年15フィートづつ高さを増しているこの火山島の息子は、以前あった火山島以上の大きさになるまで成長し続けるだろう。
低地のウジュン・クロンは浸水しやすい。浸水すればどんな野生動物にとっても大惨事であるが、それがある種の最後の個体群となるとさらに壊滅的である。
2015年に行われた研究集会で、専門家たちはより具体的に絶滅危険度の数値化を試みた。専門家らはシミュレーションモデルを使用してウジュン・クロンに残存するジャワサイ個体群の生存能力を分析し、様々なシナリオに合わせて絶滅のリスクを厳密に調べた。研究によれば、自然災害は理論上ジャワサイの個体群を一世紀おきに半減させるという。シミュレーションモデルはそう算出したけれども、個体群を完全に絶滅させられるような災害事例はわずか3.6%の場合のみである。
つまりそのような脅威が仮に存在するとしたら、火山は環境グループにとってジャワサイの生存をかけて戦うほどの懸念事項にはならない。「かなりの時間がかかるだろうが、現存する個体群はおそらく自然災害の被害から回復できる」と、国際サイ基金 (IRF) のエグゼクティブ・ディレクターであるSusie Ellis氏は説明したが、たとえ国立公園のサイ個体群の一部が噴火を生き抜いたとしても、残存するサイの生存能力に深刻な影響が及ぶ可能性があることも話した。「個体群が小さくなれば、災害であろうと他の理由であろうと親近交配のリスクが高くなる。」
さらに、既存の問題に加えて他の大きな自然問題が出現している。侵略的なサトウヤシ (学名Arenga pinnata) は、ジャワサイの好物である多くの植物上に広がって生えている。ウジュン・クロンは何年にもわたり密猟者らを追い払ってきたが、このような悪党は逃げ道を見つけて再度密猟する。
少なくともこれらの問題は解決できる可能性がある。どんなにサトウヤシの密集が大きく広がっているとしても、サトウヤシは切ることができる。密猟者は大規模な警備体制を敷くことで立ち入りを禁止できる。しかしもしアナク・クラカタウが噴火したら誰も何もすることができないため、火山噴火がジャワサイにとって最大の弱点であることは明らかである。
Ellis氏は「すべての卵を一つのかごの中に入れるのは決して良い考えではない」と断言し、「誰もが第二の住処の必要性を確信している。なので残存するジャワサイ個体群の一部を移動させるべき」と述べた。特にウジュン・クロンのサイ個体数には限りがあるため、この方法なら個体数を増加させることができ、遺伝子プールも拡張するのでジャワサイの将来が保証される。
サイは一日にたくさんの植物を食べ、また十分に遊び戯れられるスペースを必要とする。東南アジアには窮屈なジャワ島を除いて大きな低地林はほとんど残っていない。それがそもそもサイを消失させた理由の一つであったことを忘れないでほしい。
「第二の住処を見つけ出すには時間がかかる」とEllis氏は述べた。「住処となる場所は豊富で適切な食物を与えられ、安全且つ十分な広さがなければならい。さらにウジュン・クロンに残存するジャワサイのチャンスを無駄にすることなく、新たな個体群をスタートさせられるほどの個体数を移動させなければならないため、その正確なバランスを見つ出す必要がある。個体群があまりにも小さいため、間違いは許されない。」
「個人的にはこれらすべての要求を満たし、個体群を自己調節する野生動物に十分な広さの面積を与えられる場所がジャワ島に存在するかどうかは分からない。もしかしたらジャワサイを (ある程度) 捕獲飼育する必要があるかもしれない。そうなれば私たちが考えてる以上に多くの管理をすることになる」と彼女は述べた。「一部の専門家らは未だ多くの山林が残り、かつてのジャワサイ生息地でもあるスマトラで探したらどうかと提案している。ジャワサイがスマトラサイと争わないのであれば、それも一つの選択肢。しかし政府が早急に許可を出すことはないだろう。」
それまでアナク・クラカタウがもうしばらく静かでいてくれることを祈ろう。