- トラたちはジャワ、バリといったインドネシアの島にかつて生息していた他、スマトラにはまだ生息しているものの、ボルネオには生息していなかったということは科学的なコンセンサスだ。
- ボルネオの先住民の人々は異なることを言っている。例えば、「トラの牙」と言われているものがダヤク民族の伝統的な儀式にしばしば登場する。
- 一部の研究者たちは、専門家たちは地域のコミュニティにもっと注目すべきで、トラがボルネオに生息していたかどうかという問いが彼らに軽く扱われているのではないか、と思っている。
インドネシア、パランカラヤ ― ある朝、私は先住民ダヤク・ンガジュ族のリーダーであるIber Djamalのもとを訪れた。彼は私たちを招き入れ、マンダウという伝統的なダヤクの武器を見せてくれた。
ナタの一種であるマンダウを見た時、私の注意は刃ではなくマンダウを装飾する牙に集中した。
彼らがトラの牙だと言ったことが私を驚かせた。
「これらはトラの牙でヒョウの牙ではない」と、Iberは言った。「このマンダウを飾っている牙は、この武器で殺された動物のもので、私の先祖から受け継いだものだ。トラの他にワニ、クマ、そしてイノシシの牙もある。」
「カリマンタンのトラだ。このトラは私の先祖に殺された。カリマンタンにはかつてトラがいたのだ。」
Iberの説明は、明らかに一般的なカリマンタン(ボルネオ島のインドネシア領)のトラに関する見解と異なっている。
現在の科学的なコンセンサスは、カリマンタンではかつて誰もトラを発見していない、というものだ。研究者たちは、インドネシアのトラはバリ(現在は絶滅)、ジャワ(絶滅したと考えられている)、そしてスマトラ(わずか数百頭が生き残っている)だけだと考えている。
Iberはトラ — インドネシア語でハリマウ、ダヤク・ンガジュ語でハラマウン — は彼の先祖たちによって最も一般的に狩猟された動物の一つだった、と言った。
「私たちは、もし妻が妊娠している時に夫がトラを狩猟することができたら、その子どもは王やリーダーに成長すると信じている。」と、彼は言った。
もしマンダウがトラの牙で装飾されていたら、それを扱う人に勇気を与えるだろう。
「おそらく一部の人にとってトラはとても価値があるため、カリマンタンのトラたちは狩猟によって絶滅に追いやられたのでしょう。」と、かれは言った。
彼は、もし彼の部族の誰かがトラを見つけたとしても狩猟されることはないだろう、と付け加えた。「なぜならこの動物は保護が必要だからだ。」
トラの牙かウンピョウの牙か?
この現象に遭遇した後、私は長い間行方不明であるボルネオのトラの可能性について聞くため、NGOのForum HarimauKitaの議長であるYoan Dinataにコンタクトをとった。
「トラがカリマンタンに生息していたという記録や研究はありません。」と、Dinataは言った。
「しかし、ジャワ、スマトラ、そしてボルネオはかつて東南アジア本土とつながっていたため、過去に彼らがそこに生息していた可能性はあります。」
Dinataによると、今日のカリマンタンでは、スンダウンピョウ(Neofelis diardi)のみが生息している。
「これらのマンダウの刃全てを装飾しているのが、トラの牙なのかウンピョウの牙なのかはわからない。」と、彼は言った。
Dinataはその牙の起源については、更なる研究がなされるべきだと示唆した。「もしそれらが本当にトラの牙だったら、我々はそれらがどれくらい古いものかを調べるべきだ。」
科学的には、カリマンタンにトラが存在しないことは多くの疑問を科学者たちの間にもたらした。大昔のボルネオが東南アジア本土とつながっていたことは、確実にボルネオにアジアの野生動物の多様さをもたらした。
捕食者であるトラの過去の足取りは、確実に獲物の生息範囲に影響を受けていた。生息地の観点から見ると、現在のスマトラの特徴はカリマンタンのそれに似ている。
「オランウータンやゾウを含むカリマンタンのほとんど全ての動物はスマトラにも生息している。しかし、驚くべきことに現在カリマンタンにはトラは全くいないのだ。」と、Dinataは言った。
「トラが過去に生息していたというダヤクの人々の認識は研究に値する興味深いことだ。」
一方で、過去1世紀の科学的知見の情報源の多くは欧米の研究者によるものだ。— 地域のコミュニティからの情報を科学的な記録にまとめることは非常に稀である。
例えば、スマトラサイ(Dicerorhinus sumatrensis)がカリマンタンに生息しているかもしれないという発見は、一部の研究者に疑問視されていた。角や足跡のような証拠が発見された後に、ようやく専門家たちは真剣にこの種の存在について詳細に調査を始めたのだ。結果として、専門家たちはついにスマトラサイにボルネオで遭遇した。
もしかしたら歴史的な瞬間に、ボルネオのトラの足跡は地域のコミュニティからの情報に基づいて発見されるのかもしれない。
この話はMongabayのインドネシアチームにより報告され、2016年11月6日にインドネシア版のサイトで掲載された。