- この希少なコウモリは、アフリカ大陸の南東岸沖にあるコモロ諸島のアンジュアン島とモヘリ島にのみ分布する。
- 21カ所のねぐらのうち19カ所は、伐採、農地拡大、土壌流失の影響を受けている。
- この種の推定個体数はおそらくオオコウモリのなかで最少だと、研究チームは指摘する。
全面的な森林破壊により、コモロオオコウモリ(Pteropus livingstonii)の深刻な個体数減少が起きていることが新たな研究で判明した。
この希少なコウモリは、アフリカ大陸の南東岸沖にあるコモロ諸島のアンジュアン島とモヘリ島にのみ分布し、個体数は推定約1200頭にまで減少していると、研究チームは学術誌 Oryx掲載の論文で報告した。残存個体は2島の21カ所のねぐらを利用しているが、そのほとんどは生息地消失の危機にあった。コモロオオコウモリはIUCNレッドリストで絶滅寸前(CR)に指定されている。
憂慮すべき結果だと、論文共著者のひとり、ダレル野生生物保全トラスト(Durrell Wildlife Conservation Trust)保全科学部門責任者のリチャード・ヤング博士はMongabayに語った。
「コモロオオコウモリが日中のねぐらとして日常的に長期間使っている21カ所のうち、2つを除くすべてが伐採、農地拡大、斜面の森林破壊による土壌流失の影響を受けていました」と、ヤング博士は言う。「この種は脅威の増大に直面しているのです」
コモロオオコウモリは、固有の在来樹種を有し、攪乱が進んでいない原生林がないと生きていけない。しかし、コモロ諸島の森林は世界でも屈指のスピードで破壊されていると、研究者たちは言う。建材用の老齢樹の伐採、農地拡大、稚拙な農業技術が森林破壊に拍車をかけ、島の原生林は高標高地や急峻な斜面に約60km2のパッチとして残るのみだ。その結果、コウモリの好適生息地は急速に消失している。
ダレル野生生物保全トラスト、ブリストル動物学協会、現地NGO「ダハリ(Dahari)」が共同でおこなった、ヤング博士らの最新の調査によれば、現在このような森林に生き残っているコモロオオコウモリの個体数は約1260頭にすぎない。この値はおそらく、個体数がもっとも少ないオオコウモリだろうと、研究チームは指摘する。知られているなかで次に個体数が少ないのは、こちらも絶滅寸前種(CR)のロドリゲスオオコウモリ(Pteropus rodricensis)だが、その個体数は約10,000頭だ。
「残存するねぐらは、農業地帯の上限にあたる標高600~800mから、標高約1000mの間の狭い標高帯にあります。それより高い場所にも森林は残っていますが、コウモリはねぐらを作りません」と、ヤング博士は言う。「また、各ねぐらのコウモリの個体数と、周囲の森林の攪乱強度には負の相関がみられました。つまり、林冠が開けて高木が伐採されると、コウモリは苦境に立たされるのです。残念ながら、コウモリに残された場所はほとんどありません」
しかし、絶滅寸前のこのコウモリにも希望はある。
オオコウモリが長期間使っているねぐらを守るため、ダハリは生態系サービスへの対価支払をベースにした制度を運用し、農民がねぐらの周囲の森林を保護・復元する金銭的動機を提供している。制度が最初に導入されたアダ集落では、取り組みが順調に成果をあげている。
「アダ集落でねぐらのある土地を所有する農家のAbdourahamane氏は、ねぐらの木を恒久的に守り、自分の土地で在来樹種の森林再生に努める契約に署名しました」と、ダハリの技術顧問ヒュー・ダルトン氏は説明する。「その対価として、ダハリは彼の土地の別の場所にある畑での農業開発を支援し、観光客や研究者がねぐらを訪れた際にはAbdourahamane氏に報酬を支払います。また、この収入を補うか置き換えるかたちで、土地に十分な数の高木が育って持続的伐採が可能になった際には、木材販売による収益が得られるよう、Abdourahamane氏とダハリと自治体の間で伐採に関する合意を結びました」
ダハリは、Abdourahamane氏が近隣農家とともに森林・アグロフォレストリー保護区の拡大に積極的に取り組めるよう、今後も支援していく予定だ。「コミュニティに利益を生むことで、保全スキームへの賛同者を増やしたいと考えています」と、ダルトン氏は言う。
コモロオオコウモリの研究はほとんど進んでいないため、具体的な保全に関する提言をおこなうのは難しいと、ヤング博士は言う。フィールド研究を推進し、いまある原生林と劣化した森林を守り、農村コミュニティの保全への参加を促す地元の取り組みを支援することが、この種を救うためには欠かせない。
ヤング博士は言う:「結局、コモロオオコウモリを救うためには闘いつづけるほかありません。それはこの種のためになるだけでなく、種子分散や送粉というオオコウモリの役割を考慮すれば、現存する分断された高地雨林を健全に保ち、将来の地元コミュニティの幸福を増進することにもつながるのです」
文献:
- Daniel, B.M., Green, K.E., Doulton, H., Mohamed Salim, D., Said, I., Hudson, M., Dawson, J.S. and Young, R.P. (2016) ‘A bat on the brink? A range-wide survey of the Critically Endangered Livingstone’s fruit bat Pteropus livingstonii’, Oryx, , pp. 1–10. doi: 10.1017/S0030605316000521.