- ヒトに感染する新興感染症は分かっている限りで約250種類存在する。それらの感染症は最近人間社会に突如現れたもの、発生率によるもの、地理的範囲内で急速に増加しているものがある。
- 今月初め、サイエンス・アドバンス誌に発表された研究論文の著者たちが述べたように、これまでに分かっている新興感染症の多くは特に熱帯雨林の淡水系で発見された。
- 研究論文は森林伐採と土地利用変化によって淡水域の食物網が崩壊したことで、マイコバクテリウム・ウルセランス菌 (Mycobacterium ulcerans) と呼ばれる病原体の分布率が上昇したことを明らかにしている。その細菌はブルーリ潰瘍という皮膚病を人間にもたらす。
環境の劣化が感染症のまん延に加担しているという証拠はすでに十分存在している。そして今回、最新の研究論文は森林伐採と他の土地利用変化による生態系の崩壊がどのように病原菌のまん延に加担しているのかを例示する。
ヒトに感染する新興感染症は分かっている限りで約250種類存在する。それらの感染症は最近人間社会に突如現れたもの、発症率によるもの、地理的範囲内で急速に増加しているものがある。開発途上国における急速な都市化やヒトによる人口侵略は、新興感染症の発生を広める手助けとなることが知られている。
例えばジカウイルスを伝染させる蚊は、人間によって作られる未収集のゴミの山や古い缶詰、水を溜めて昆虫の繁殖地と化する樽やタイヤなどの一般廃棄物による 人工生息地で増殖 する。
今月初め、サイエンス・アドバンス誌 に発表された研究論文の著者たちが述べたように、これまでに分かっている新興感染症の多くは特に熱帯雨林の淡水系で発見された。研究論文は森林伐採と土地利用変化によって淡水域の食物網が崩壊したことで、マイコバクテリウム・ウルセランス菌 (Mycobacterium ulcerans) と呼ばれる病原体の分布率が上昇したことを明らかにしている。その細菌はブルーリ潰瘍という皮膚病を人間にもたらす。
世界健康機関 (WHO) によれば、ブルーリ潰瘍はアフリカ、アメリカ州、アジア、西太平洋地域の33カ国で報告されたという。ブリーフ潰瘍の治療は手術や皮膚移植などの複雑な処置を施すこともできるが、それでも大抵の場合が長期的な後遺症を残す結果に終わっている。ブルーリ潰瘍がどのように伝染するのか解明されていないため、予防対策は今のところない。
しかしサイエンス・アドバンス誌の最新論文は、ブルーリ潰瘍を引き起こす細菌が正確にどう広がり人間に接触するのかについて異なる観点から見直している。
インペリアル・カレッジ・ロンドンのAaron Morris氏が率いる研究チームは、今回の研究のためにブルーリ潰瘍が流行している南米のフランス領ギアナにおいて、17カ所の淡水域から3600種以上におよぶ無脊椎動物の魚の標本を収集した。研究チームは食物連鎖の下層に位置する小さな魚や昆虫などの生物にM. ulceransの最高濃度が現れていたことを発見した。
Morris氏と研究チームは同様に、収集を行った各現場でどれほどの森林伐採や環境劣化が発生したのかを測定する調査も行った。土地利用変化による影響範囲は各地で見られ、完全に都市化されていた地域もあれば農用地に転用されていた所もあった一方で、本来の熱帯雨林のまま残っていた所もあった。
今回研究チームが気づいたことは、大型捕食者や食物連鎖の頂点に位置する生物の間で個体群を減少させた原因が環境の劣化にある程度あったということ。言わば下層に位置する生物を捕食する動物は徐々に減り、必然的に微生物を増殖させている。そして微生物はM. ulceransを宿すのに適しているため、細菌もかなりの数が繁殖するようになってしまった。
しかしより一層の森林伐採や土地利用変化が発生したにもかかわらず、微生物の個体群密度も同様に低下していた。それはM. ulceransを増殖させられるある範囲が存在することを示唆している。「細菌を運ぶ微生物は、甘いものがあるところにたくさん寄ってくる。しかし広範囲にわたって生息地の駆除を行えば、微生物の数もまた減少する」と、Morris氏は ワシントン・ポスト紙に話した。
Morris氏と論文の共同執筆者らは、世界中のどこであろうと今回の研究結果が当てはまると言う。「特に世界の熱帯地域 (ほとんどが開発途上国に存在する) で都市化、農業、森林伐採が激増すれば、M. ulceransの調査で観測したような傾向が他の「新興感染症」にも見られるだろう。」
著者らはそう警告し、研究論文で特定の新興感染症の発生について潜在的メカニズムを明らかにしたにもかかわらず、研究結果の「一般化可能性」には、より確実に確証させるためのさらなる試験を必要とする。
「世界中が都市化すれば土地利用変化によってかなりの人口が押し寄せるため、新興・再興感染症がますます一般的になるだろうと予測するのは当然のこと」と彼らは書く。「従って人為的な活動によって妨害された地域、特に生物多様性 (微小、巨大どちらの種も) が高い熱帯地域における病原菌出現のメカニズムに関して、より実質的な証拠を見つけ出さなければならない。」

引用元
- Morris, A. L., Guégan, J. F., Andreou, D., Marsollier, L., Carolan, K., Le Croller, M., … & Gozlan, R. E. (2016). Deforestation-driven food-web collapse linked to emerging tropical infectious disease, Mycobacterium ulcerans. Science Advances, 2(12). doi:10.1126/sciadv.1600387