- 「バキータの回復に関する国際委員会 (CIRVA) 」の最新レポートによると、コガシラネズミイルカが唯一生息するメキシコ本土とバハ・カリフォルニア半島とを隔てるカリフォルニア湾北部には、現在わずか30頭のバキータしか残されていない。
- 残存するバキータの個体群のうち約49%が、2015~2016年の間に失われていたことをCIRVAは知った。
- バキータ (コガシラネズミイルカ) の主な死因は、メキシコの巨大魚・トトアバを漁獲する際に使用する刺し網に引っかかっているためである。トトアバの浮き袋は特に中国で需要が高い。
バキータには引き続き「世界で最も絶滅の危機に瀕したクジラ目」の称号が与えられている。
「バキータの回復に関する国際委員会 (CIRVA) 」の最新レポート によると、コガシラネズミイルカが唯一生息するメキシコ本土とバハ・カリフォルニア半島とを隔てるカリフォルニア湾北部には、現在わずか30頭のバキータしか残されていない。
残存するバキータの個体群のうち約49%が、2015~2016年の間に失われていたことをCIRVAは知った。つまり2011~2016年の年間平均減少率はおよそ39%で、個体群がこの5年間で90%も減少したことになる。
バキータ (学名Phocoena sinus) の主な死因は、トトアバ (メキシコの巨大魚で、トトアバの浮き袋は特に中国で需要が高い) を漁獲する際に使用する刺し網に引っかかっているためである。バキータ・マリーナとしても知られるバキータは小型のネズミイルカで、刺し網に引っかかると呼吸をするために水面へ上がることができないため溺死してしまう。
メキシコ政府は2015年、バキータの生息海域における刺し網漁の緊急禁止を実施し、その期限が今年4月で切れる。CIRVAは刺し網漁の禁止令を永続させるよう要求している。
「[既]存の保全対策と禁止令を実施しているにもかかわらず、すでに絶望的な状況はさらに悪化するばかり」と、CIRVAのレポートの著者は書いている。「違法刺し網漁による死亡率をなくして個体群の減少を阻止しない限り、バキータは数年後に絶滅する。」
違法刺し網漁は禁止されているにもかかわらず、未だ頻繁に行われていることをCIRVAは知った。2016年に刺し網によって 3頭のバキータの死体が確認 されたこと、また昨年の間に約50%の個体群が減少したことを考え合わせると、禁止令が見込み通りにいかなかったことを十分に証明していると科学委員会は述べた。「既存の漁業規制におけるより効果的な措置が必要である。その措置とはカリフォルニア湾北部での違法な漁業活動に関する報告に対して迅速に対応し、彼らを逮捕し起訴すること」と、レポートは述べている。
メキシコとアメリカ政府は、残存するバキータの個体群を維持するためにトトアバの違法取引を取締り、バキータを殺さずに刺し網の代わりとなる漁具の開発、カリフォルニア湾のバキータ生息地における違法または放置された漁具の除去など、共同で数多くの方策を講じた。
しかしメキシコ・アメリカの研究チームは昨年、現在禁止している刺し網漁および新たな漁法への転換計画によって、バキータの絶滅を脅かしている当面の混獲問題を緩和させられる可能性があるとはいえ、「現地社会の生活・伝統・習慣およびその地域の生物学的健全性を無視し、また漁業助成金への依存性を高めている」ことから、その保全計画はきっと上手くいかないだろう と判定した。
バキータの長期保全計画には、現地社会の協力が必要と研究者たちが主張しているにもかかわらず、現地の漁夫たちはカリフォルニア湾北部における管理計画の策定過程から大抵除外されている。
メキシコ政府が近ごろ計画した対策に対する反応は悲観的だった。環境天然資源省 (SEMARNAT) が先月、バキータを救うために個体群の一部を漁獲し、一時的に避難させるという緊急計画を発表した ことに対して、国際環境NGOグリーンピースはその処置の有効性について保証がないと警告した。
グリーンピースは、バキータとほぼ同種のクジラ目であるネズミイルカの飼育が上手くいっていないことを言及した。バキータの個体群がすでに何年にもわたり追い詰められているとすれば、これ以上の損失は残存する個体群にさらなるストレスを与えるだけである。
SEMARNATが捕獲飼育プログラムの実施にあたり発行した公式声明の中で、カリフォルニア州サンディエゴに拠点を置く「全米海洋哺乳類財団 (NMMF) 」の代表であるSam Ridgway氏は、捕獲飼育で繁殖させた後にバキータを再び生息地へ戻すことができないことを認めている。
「自然保護論者らが1980年代にカリフォルニアコンドルを絶滅の危機から救った時のように、今回も世界中から専門家が集まりバキータの救済に取り組んでいる」と、Ridgway氏は述べた。「私たちに勝算がないことは分かっているが、自然保護論者と科学者たちは行動を起こす義務があると感じている。それぞれの経験を結集させて、何かしらの変化をもたらせられることに期待している。」
グリーンピース・メキシコの理事長であるGustavo Ampugnani氏は、トトアバ漁という根本的問題と刺し網の使用に関する問題が解決されない限り、その「思い切った処置」にできることはほとんどないと返答した。「バキータを自然生息地で保護するためにトトアバ漁をなくさなければならないことは誰もが分かっていること。ただ海域を監視するのではなく、地域をサポートしたりバキータの保護に現地社会を参加させ、生物に危害を加えない漁具開発に対して社会経済政策を活用させるべきである」と、Ampugnani氏は述べた。