- IUCNにより絶滅危惧種に指定されているケープペンギンの西ケープ州個体群の若鳥は、他に手が届く選択肢があるにもかかわらず、平均水準以下のエサ場にしばしば集まる。
- この個体群のペンギンたちはここ数十年で80%減少した。
- 最近の研究は、西ケープ州のペンギンの数は、この生態学的罠がない場合に比べて半分になっていると推定する。
進化とは、環境の力に対抗し、地球での生存に向けた研ぎ澄まされた戦略を鍛造するための絶妙な金槌になりうるものだ。しかし、環境をあまりにも混乱させたり、あまりにも早く変化させたりもする。そして、突然これらの適応が生物たちを間違った方向へ向かわせるかもしれない。実際、彼らを絶滅へと導くかもしれない犠牲の大きな罠へと向かわせる。
最近科学者たちはアフリカの南端で、IUCNにより絶滅危惧種とされているケープペンギン(Spheniscus demersus)が、この「生態学的罠」に陥っていることを発見した。これは、海洋環境において初めての発見である。そして、これは我々人類が過剰漁獲と気候変動を通じて引き起こしたものだ。
イギリスのエクセター大学と南アフリカのケープタウン大学の生態学者Richard Sherleyに率いられ、ナミビアと南アフリカ政府の研究者も含む研究チームは、彼らの研究をCurrent Biology誌に発表 した。
南アフリカ西ケープ州のペンギンの個体数はこの数十年で約80%減少した。生物学者たちは、この減少はケープペンギンの好むエサ場から彼らの営巣地の西側まで、彼らの好むエサとなる種(カタクチイワシやイワシ)が消失したためだと結論づけた。過剰漁獲と気候変動の連鎖反応による水質の変化が、これらの魚の産卵群を東側へ追いやったか、完全に全滅させた。
長い間西ケープ州営巣地の西の海は際立って豊かだった。北風が南アフリカとナミビアの海岸に沿って吹き、湧昇として知られるプロセスにより、冷たく栄養豊富な海水を2、3百メートルの深さから引き上げる。これがプランクトンの大群を引き起こし、歴史的に数百万のカタクチイワシとイワシが即座に後を追ってきた。
続いて、獲物の集合は、このようなビュッフェを見つけるために数千キロの海を縱橫に動くケープペンギンたちのようなより大きな捕食者を引き寄せる。ペンギンたちは、彼らが正しい方向に向かっていることを示すプランクトンが放出する化学物質や水温のような合図を感じ取るように進化してきた、と研究者たちは書く。
しかし現在は、彼らがかつて信頼できたエサ場へと向かう時、栄養豊富なイワシとカタクチイワシよりも、むしろクラゲや低カロリーなハゼを発見する可能性が高い。
大人のペンギンたちは望ましいエサのために東へ向かう必要があることを見つけ出したようにみえる。これは長年の狩りから学んだ教訓だ。しかし、Sherleyと彼の同僚はより若い個体たちが破綻した戦略に捕らわれているのではないかと思った。これは、彼らが進化させてきた獲物へと向かわせる感覚が、彼らにとってあまりに早く変化した環境へと彼らを導いてしまう罠だ。
Sherleyと彼の同僚は、若いペンギンたちがナミビアと南アフリカの繁殖地を離れて外洋へエサを探しに向かった時に、彼らの動きを追うために人工衛星を用いた。
「私は、我々がこの追跡をした時、彼らが東へ移動することを望んでいた」と、SherleyはMongabayに語った。しかし、データは、未熟なペンギンたちの習性は彼らが環境の変化に順応するのに十分なほど柔軟ではなく、代わりに彼らを劣ったエサ場へと導いたことを明らかにした。
この激変の影響を定量化するために、チームは一連のモデルを実行し、もし若鳥たちが代わりに(現在)獲物の豊富な東の海域へ泳いだ場合のペンギンの個体数を概算した。
「我々が行ったモデリングは、西ケープ州の個体数はおおよそ現在の二倍だったであろうことを示唆する」と、Sherleyは言った。「これは非常に明確な人口学的影響だ」
しかし、これらの西側のコロニーが実際に生き残るかどうかは議論の余地がある、と彼は付け加えた。
「これらは不適切な生息地になりつつあるかもしれない」と、かれは言った。「つまり、このことはペンギンたちがこの低い水準のまま推移していくことを意味するかもしれない」
現在までに生態学的罠に関する研究は罠そのものを調査することに集中しており、どのようにこれらが個体群に影響するかは注目されていない、と今回の研究には参加していないオーストラリアのメルボルン大学の海洋生態学者であるRobin Haleは言った。Haleと同僚の生態学者であるStephen Swearerは生態学的罠に関する研究のレビューを2016年に編集している。
「この論文は、生態学的罠が、より大きなスケールの個体群の持続において何を意味するのかについて考え始めるために次の段階にすすんでいる点が実に興味深い」と、Haleは言った。
これらの新たな事実は保全における意思決定に示唆を与えるかもしれない。Sherleyと彼の同僚は、ひな鳥たちをカタクチイワシとイワシのいる海域に近い南アフリカの東ケープ州の繁殖地へ移動させることも可能性のある選択肢だと示唆した。彼らはまた、現在の魚の個体群を反映した境界設定や、重要なエサとなる種の個体数が減少した際に漁業を禁止する海洋保護区のような、動的な保護手法を提唱している。
罠の存在を明らかにすることは未だに重要なステップだ、とHaleはMongabayに語った。「これは海洋での罠の最初の実証例だ」と、彼は付け加えた。これは瑣末なことではない。
これには、我々人類が単なるビジターでしかない海洋環境において、なぜ動物が低水準な生息地を選択しているのか、そしてそれがどのように生存の機会に影響するのかを全て解明する必要がある、とHaleは言った。
「これは極めて難しい」と、彼は付け加えた。
引用:
- Hale, R., & Swearer, S. E. (2016). Ecological traps: current evidence and future directions. Proceedings of the Royal Society of London B: Biological Sciences, 283(1824). https://doi.org/10.1098/rspb.2015.2647
- Sherley, R. B., Ludynia, K., Dyer, B. M., Lamont, T., Makhado, A. B., Roux, J.-P., … Votier, S. C. (2017). Metapopulation Tracking Juvenile Penguins Reveals an Ecosystem-wide Ecological Trap. Current Biology. https://doi.org/10.1016/j.cub.2016.12.054