- もし世界各国が2100年までに気温上昇を1.5度に抑えるために、各々の最も野心的な目標を達成できたとしても、一旦上昇した二酸化炭素濃度は今後半世紀において海洋にストレスとダメージを与え続ける。
- 漁獲や他の人間による開発行為から海洋保護区を保護することで、気候変動がもたらす海洋酸性化、海面上昇、嵐の激化、その他の影響による被害を軽減できると新論文は主張する。
- 論文によれば、海洋保護区は炭素を隔離したり貯留したりすることによって地球全体に利益をもたらすこともできるという。
- 「生物多様性条約及び持続可能な開発」が沿岸国に対して、2020年までに海域の10%を保護するよう要求しているが、地球温暖化の影響を効果的に阻止するためには30%の保護が必要となるだろうと論文の著者は主張する。
全世界が二酸化炭素排出量の削減と気候変動を抑えるために最大限に協力し合ったとしても、上昇した二酸化炭素濃度は今後数十年にわたって海洋に害を及ぼし続ける。新論文は、気候変動によって海洋にもたらされた最悪の事態を軽減させる上で費用対効果のある方法が海洋保護区 (MPA) であると主張する。
漁獲および人間による開発行為が禁止または大幅に縮小されているMPAには、一般に水産資源と海洋生物多様性を回復させられる能力があると言われている。しかし、学術雑誌「PNAS」に今週発表された新論文は、異なる観点から海洋保護区のプラス効果を考察している。
論文はMPAが海水の酸性度を低下させ、海面上昇および嵐の激化などの影響を緩和させられるという証拠を示している。またMPAは、もともと生息していた場所が適さなくなった種にとっての安全な避難場所となり、さらに低酸素や栄養物の欠如によって損なわれた海域から種を再生息させるための養魚場となることもできる。論文は同様に、MPAが二酸化炭素貯蓄・隔離によって世界中の二酸化炭素排出量のオフセットを手助けていることも強調している。
「現在油と石炭があるのは、海洋生態系が何千年にもわたり炭素を隔離してきたおかげである」と、論文の著者一人で、ブリティッシュコロンビア大学「シーアラウンドアスプロジェクト」の研究責任者であるDaniel Pauly氏はMongabayに話した。
「自然が本来の姿を再確認できる場所に海洋保護区を設置することは、(大規模な) 生態系のためになるという当たり前のことを今回の論文であらためて述べている」と、彼は述べた。
表面海水中の酸性度は産業革命以降、大気中の二酸化炭素濃度の増加によって平均26%も上昇し、多くの海洋生物の問題となっている。論文は魚がこの問題を軽減させられるかもしれないと考える。魚は海水からカルシウムを吸収することで知られており、それを炭素と結合させて海洋酸性化を中和させられる弱アルカリ性の炭酸分子を分泌する。中深海水層 (水深200~1000メートルの間) を住居とする魚は、カルシウムが豊富な深海と炭酸カルシウムを放出する海洋表層の間を日々泳いでいる。論文はこのような魚類を保護するために、外洋域でMPAをもっと増設すれば海洋酸性化を和らげられると主張する。
論文によれば、MPAは海面上昇および暖かい水温から生じる狂暴で勢力的な嵐を和らげることもできるという。沿岸湿地、塩沼地、マングローブ林を有するMPAは、嵐の勢力を和らげたり洪水を緩和させることで背後の陸地を保護している。
「マングローブは防壁を建設するより安い」と、Pauly氏は指摘した。
海水温の上昇は一部の海洋生態系に変化を与え、生物にとって住みにくい海洋環境となるためにかなりの種を移転させている。論文は、地域的にネットワーク化されたMPAがこの移動食い止める飛び石の役割を果たし、種の局所的な消滅または個体群が孤立するリスクを低減させることができると断定する。
論文によれば、MPAは栄養価の乏しい「海の砂漠」の発生率の増加、および海洋上層部における酸素の減少 (どちらの現象も気候変動に関係している) をも妨げられるかもしれないという。健全なMPAはこれらのデッドゾーン (酸欠海域) から種を避難させられるだけでなく、近隣海域の種の再生息をも助けられるかもしれない。論文は、メキシコ・バハカリフォルニア半島のMPA海域内におけるアワビの産卵量の高さが、ますます頻繁に低酸素エピソードに襲われている近隣海域の回復を早めていることについて記述している。
海草などの海洋植物は、世界的規模で二酸化炭素を吸収してそれを植物体へと変化させ、その後沼地がこの回収された二酸化炭素を隔離する。海草生息地や沼地が崩壊すれば、このような炭素隔離の形態を失うだけでなく、すでに貯留されている有機炭素まで炭素循環へと放出しまう。論文はMPAを保護することでこれらの影響を阻止できると指摘する。
Pauly氏と共同著者らによると、これら全てのことが世界規模でMPAの大きさと数を広げるに十分な根拠であるという。現在、保護区として分類されている海域はわずか5.7%のみで、その多くがより良い管理を必要としていると、国連の生物多様性条約 (CBD) 事務局長であるChristiana Pasca Palmer氏はプレスリリースで述べた。彼女たちの現在の目標は、沿岸国に対して海域の10%をMPAに転換させることである。しかし、論文の著者は目標を30%近くにすべきであると主張する。
「効果のある気候変動対策を求めている時に、この論文は力強い議論を展開している」と、フロリダ州立大学・地理学部の助教授であるSarah Lester氏 (論文には関わっていない) はMongabayに話した。
カリブ海のMPAを担当しているLester氏は、漁獲が禁止されている海洋保護区には大きな違いが見られると述べ、「人間の生活が健全で機能的な自然生態系にかなり依存していることから、私たちは海洋生態系を維持させる必要がある。」
しかし、MPAがベストな方法であると誰もが同意しているわけではない。一部の科学者たちが今もなお海洋保護区の有効性について積極的に討論していることを論文は認めている。
ワシントン大学/海洋・水産学部の教授で、MPAの批評家であると自己認識しているRay Hilborn氏は、水産業なら漁具による環境被害を最小限に抑えつつ、養殖および個体群の増加を慎重に進めていくことができるとMongabayに話した。特定の海域しか保護できないMPAと違って、この方法なら危険にさらされている海洋生息地や種をすべて保護しつつ、人々に安定した食料源を提供し続けることができると彼は確信する。
重要なのは「海洋生態系だけにとらわれずに物事を考えること。水産業は世界の食料供給と繋がっているということを忘れないで欲しい」とHilborn氏は述べた。海洋の30%を漁獲禁止のMPAとして確保することは、陸地の食料生産がもっと必要になることを意味し、余分な森林を農地や家畜へと転換すれば漁業よりもかなり大量の二酸化炭素排出量が発生すると彼は主張する。
東南アジアのような漁獲禁止の規制があまりなされていない国では、すべての領海を取り締まるよりも指定されたMPAの方が監視しやすいということをHilborn氏は認めているが、アメリカ・カナダ・オーストラリアなどの管理がなされている国においてMPAは意味を成さないと考える。
Pauly氏はMPAが食料供給を制限するという主張に対して反論する。「MPAは漁獲を制限しているものの、総合的にはより多くのことを収獲している」と彼は述べ、「生物多様性のために漁獲を犠牲にしなければならないと考えている人が多いが、実際魚を生産するには生物多様性が必要である」と付け加えた。
そうとは言うものの、論文は漁獲制限や他の規制によってにある程度の有益がMPAにもたらされていることを認めており、またMPAの成功には実施と管理がどれほどなされているかによって“大きく左右される”こと、MPAが温室効果ガス排出量を削減させるための代用品でないことも認識している。しかし論文は、海洋生態系の保護がどれほど重要な役割を果たすのかについて強調し、「自然を活用した解決策 (nature-based solution) 」と呼ばれるあまり知られていないメカニズムへのさらなる研究を奨励している。
「私たちは常に私たちの考える有益な方へと世界を修正/変換することに慣れてしまっている」とPauly氏は述べ、「しかし実際は、我々人間の介入が生態系を破壊している。」
引用元
Roberts, C.M., O’Leary, B.C., McCauley, D.J., Cury, P.M., Duarte, C.M., Lubchenco, J., Pauly, D., … Castilla, J.C. (2017). Marine reserves can mitigate and promote adaptation to climate change. PNAS. doi: 10.1073/pnas.1701262114.
Kim Smuga-Otto氏はカリフォルニア州・サンタクルーズを拠点とするジャーナリスト。彼女をフォローするには @kim_smuga