- 米国科学アカデミー紀要 (PNAS) に発表された新論文は、生息地の断片化および4,000種以上の陸生哺乳類に関する絶滅リスクの数値化を試みた。
- 種の分布範囲や体の大きさなどの要因を考慮したとしても、断片化は絶滅リスクをもたらす重要な予測要因であることが分かった。
- 論文はまた、「断片化ホットスポット」を地図化し、適合性の高い哺乳類の生息地が保護区域内にほとんど存在していないことも発見した。
手付かずの生息地が十分に存在しない地域に取り残された動物は、絶滅のリスクがより高くなると研究者たちは長い間仮定してきた。生息地の断片化はあまりにも狭い区域に動物を閉じ込め、行動の制限や遺伝子流動、また密猟者から気候変動に至るまでのさまざまな脅威を種にもたらしている。
米国科学アカデミー紀要 (PNAS) に発表された7月3日の論文は、世界中の4,000種以上もの陸生哺乳類にリスクを与えている断片化の数値化を試み、生息地の断片化が進んでいる地域に生息する種の絶滅リスクが非常に高かったことを発見した。
この関連性は、種の体の大きさや全体的な分布範囲のサイズ等の要因を考慮しても変わらなかった。
「今回私たちは断片化、地理的範囲のサイズ、種の体の大きさに関する相対的寄与を踏まえて絶滅リスクを評価する統計モデルを使用した」と、コロラド州立大学/魚類・野生動物保全生物学部の教授で、論文の筆頭著者であるKevin Crooks氏はメールでMongabayに話した。「分布範囲のサイズや体の大きさなどの影響を統計的に考慮してもなお、断片化が絶滅リスクをもたらす重要要因であることを統計モデルは示している。統計モデルによる断片化等のデータは最も重要な証拠となった。」
長年にわたり協働してきたコロラド州立大学とイタリア・ローマ・ラ・サピエンツァ大学の研究チームは、哺乳類の26目に属する4,018種が直面している断片化の程度を測定するために、高分解能生息地適正評価モデルを使用した。その後科学者たちは、生息地の断片化およびIUCNレッドリストが評価した絶滅リスクとの関係について分析した。
世界的規模でこれ程多くの動物の絶滅リスクと断片化との関連性が数値化されたのは今回が初めてと研究者たちは言う。
「おそらく最も驚愕的な発見は、現在IUCNが絶滅危惧種として掲載していない哺乳類が生息する地域の断片化率が高かったということ」と、Crooks氏は述べた。「これは絶滅の初期段階もしくは絶滅リスクがあるかもしれないと分かっている場所において、断片化の脅威が存在するということを示唆している。」
研究チームはまた、哺乳類にとって重要となる地域における手付かずの生息地および「断片化ホットスポット」の両方を明らかにする世界地図を作成した。その中でも懸念される地域はアマゾン盆地を除いた南米、中南アジアの一部の地域、北米東部、ヨーロッパで、これらの地域が断片化した主な理由は都市開発や森林伐採などの人間活動によるものである。
意義深いことに、哺乳類にとって重要となる生息地のほとんどが保全のために確保されていないことを研究者たちは発見した。保護区域内に位置する「適合性の高い生息地 (ある特定の種が存続する上で好ましい生息地と定義された場所) 」で発見されたのは、わずか3.6%の普通種のみであった。現在世界の15%の陸地面積が保全のために確保されているにもかかわらず、今回の研究結果によって“不適切な保護区のグローバルネットワーク”が明らかになったとの結論を論文は下している。
「世界中で生物多様性を脅かしている最大の脅威は生息地の断片化である」と、Crooks氏は述べた。「人類が誕生して以来、ホモ・サピエンス (ヒト) /1種が世界を支配している。それ以前は対照的に、我々生物は地球全体を移動して互いに理解し合ってきた。残念ながら、ヒトが“繋がり”を持とうとすればするほど、この地球を分かち合っているヒト以外の生物はますます危険にさらされ、分離していく。」
「生息地の断片化は緊急に対処を必要とする一方で、対処が可能な世界の保全課題であるということも重視しなければならない。今回の研究結果は、野生生物コリドー (回廊) や生息地リンケージなどの保全ツールを利用して、残存するパッチ状生息地の保護および分断化した景観を再連結させるなどの取り組みの強化を要求している。」
今後、戦略的に重要となる保全の優先事項を特定する際、IUCNが行っているような絶滅リスクの評価に今回のような断片化の定量的評価が組み込まれることに期待するとCrooks氏は述べた。
重要となるのは次の段階で、研究チームが使用した評価モデルを局地的な規模に適用し、哺乳類の分布と生息地利用に関するフィールド・データを用いて研究結果を検証することとCrooks氏は付け加え、「これは現実世界で役に立つ保全利用をより徹底的に評価する手助けとなる」と述べた。
引用元:
- Kevin R. Crooks el al., “Quantification of habitat fragmentation reveals extinction risk in terrestrial mammals,” PNAS (2017). www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1705769114