- パリ協定が掲げる1つの大きな目標は、二酸化炭素排出量を削減して世界平均気温の上昇を摂氏2ºC未満に抑えることである。
- 2ºC未満の達成に向けた世界の進行状況を把握するために、気候科学者は1800年代後半から観測され始めた温度のベースラインを使用している。
- しかし新論文は、このベースラインが人為的温暖化の始まる以前の実際の世界平均気温を表していない可能性があることを発見する。論文の著者は古いベースラインの方がより正確であると言う。
- 今回の研究結果が正しいとすると、世界は以前の推定よりも0.2ºCほど暖かく、現在の排出量削減目標を達成するには炭素の燃焼を40%以下に抑える必要があるということになる。
世界各国が炭素排出量の削減によって地球温暖化のもたらす最悪の影響を阻止しようとしている最中、新論文は削減目標を達成する上で極めて重要となる「産業革命前」のベースラインの正確性について疑問を抱いている。
2016年の時点で、パリ協定に合意した196ヶ国 (この数字はドナルド・トランプ米大統領がパリ協定から米国を離脱させると発表したために195ヶ国へと減少した) は、世界の平均気温上昇を1800年代後半から観測され始めたベースラインと比較して2ºC未満に抑えるために、温室効果ガス排出量の削減を公約した。
気候科学者がこのベースラインを使用する理由は、観測が開始される以前の温度に気候変動を引き起こす人間活動がさほど影響していないと考えられているからである。しかし、「ネイチャー・クライメート・チェンジ (Nature Climate Change)」に今週発表された論文の研究結果は、1800年代中盤の文明社会が世界平均気温を変化させるのに十分な温室効果ガスを排出していたことを指し示している。
論文は実際の産業革命前がおそらくもっと以前から始まっていると主張し、そうなると私たちが考えていたよりも2ºC未満への道は遠いかもしれない。
「地球が産業革命前と比較して1ºC (1.8ºF) 暖まったと「気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 」は言うが、それはおそらく誤りだろう。実際は1.2ºC (2.16ºF) 上昇している」と、アメリア・ペンシルベニア州立大学/地球システム科学センターの教授兼所長で、論文の共著者であるMichael Mann氏は述べた。
1800年代後半の温度データが産業革命後のベースラインとして使用されているもう一つの理由は、正確に気温を観測する上で必要となる技術が当時利用不可能だったことにある。しかし現代の進歩によって、科学者は過去にさかのぼって温度を求めることができ、また数百年前に氷床コアに閉じ込められた気泡中に含有する二酸化炭素量の分析も可能にしている。
そうすることで、科学者は温室効果ガス排出量が実際1750年代から増加し始めていたことに気づいた。温室効果ガスの濃度は、産業革命前のベースラインが280ppmであったのに対し、現在約410ppmである。今まで考慮されてこなかったが、産業革命前とされているタイムラインを実際にCO2が増加し始めた頃までさかのぼって考えてみると、大気中の温室効果ガス濃度はさらに30~40ppmがプラスされるだろうと Mann氏はE&E Newsに話した。
つまり、世界が気温上昇を2℃未満に抑えたいのであれば、大気中の温室効果ガス濃度を安定化させるべき時間を見直す必要があるかもしれないとMann氏と彼の同僚は論文に書いている。
「IPCCの研究コミュニティは、すにで始まっている温暖化を過小評価するような産業革命前の定義を使用している」と、ペンシルベニア州立大学の著名な大気科学の教授で、地球システム科学センターの所長であるMichael Mann氏は述べた。「最も危険な気候変動を回避したいのであれば、これまで考えていたよりもさらに炭素の燃焼を減らさなければならない。」
では、気温上昇を2℃未満に保つためにはどれほど炭素の燃焼を減らさなければならないのか?Mann氏は40%減らす必要があると述べた。言い換えると、パリ協定の目標を達成させたいのであれば、各国は掲げている排出量を約2倍近く削減させる必要があると今回の論文は締めくくる。
「パリ協定の目標を改訂するか、あるいは現行のまま温暖化が19世紀後半から始まっていたと決めつけるほかない」と、Mann氏は述べた。