- 生物学者トーマス・ラブジョイ(Thomas Lovejoy)氏は「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」の中で、地球が直面している一連の生物多様性や種の消失は止めることができると述べている。
- ラブジョイ氏は、最近の研究により多くの動物の数が大幅に減少し、さらには絶滅の危機に瀕している事が明らかになったと指摘し、人類が生態系に与える影響すべてに対処する必要があると主張している。
- 同氏は荒廃した森林や湿地の再生を呼びかけている。この活動は誰でも参加できるものであり、野生動物と生息地の生育を促進して生態系の働きを取り戻すためのものである。
地球は今まさに6回目の大量絶滅期に差し迫っており、人類に責任があることに疑いを持つ科学者はほとんどいない。難題に直面しているにもかかわらず、「今回奨励したいのは私たちにはまだ何か対処できることがあるということだ」と、生物学者トーマス・ラブジョイ氏は語る。
「その他の大量絶滅とは対照的に、今回の件に関してはある一つの種族に責任があり、それに十分気付くこともでき、実際に止める事も可能である」と、同氏はインタビューで語った。
バージニア州フェアファックスにあるジョージメイソン大学で教授を務め、「生物多様性の父」とも呼ばれるラブジョイ氏は、先ごろ米国科学アカデミー紀要(PNAS)に一つの論文を投稿した。その中で、この前例のない種の喪失を防ぐためには人類が地球に強いてきた全ての変化を考慮することの重要性を強調した。
「人間は進化の過程で自分たちに直接関係する事態に対応するよう遺伝子的に組み込まれている」とラブジョイ氏は語った。「しかしまた、私たちは先の事や実際何が起こっているのかを心で見極めることもできる」
現在の状況は、PNASに投稿された別の科学者チームの研究によれば、調査した27600の脊椎動物種の3分の1が減少しており、その中には絶滅の危機にあるとは考えもしなかったものも多く含まれているという。確かに、地球は絶滅という濁流の途中にあり、過去1世紀において1年に約2種の生物を喪失してきた―これは“正常な”絶滅速度の100倍にも及ぶ速さである。しかし7月10日に発表された研究論文によれば、明白な動物の喪失はそれよりもはるかに多い動物の減少を覆い隠してしまっているという。
「彼らがよく強調して言うのは、絶滅は結果ではないということだ」とラブジョイ氏は語る。「それは過程なのだ」
絶滅の危機に瀕した動物の生息地を保護するために密猟や生息地の喪失といった直接的な脅威に取り組むことが重視される一方で、“地域に焦点を当てた取り組み”になるような目に見えない連鎖反応に対処する方法も探し出さなければならないとラブジョイ氏は執筆している。
例えば、ラブジョイ氏は50年以上にわたる実地調査により自身が熟知しているアマゾン熱帯雨林の水位の変遷を指摘している。世界最大の熱帯雨林の50パーセント以上が現在何らかの方法によって保護されているが、それでも種の喪失を食い止めるためには”絶対的に”十分でないとしている。
例えば人間が森林の別の部分を伐採する、それは多くの場合食料を供給するための農地や牧場を確保するために行われるのだが、伐採により森林に雨が降るというサイクルが妨害され、蒸発や自生する植物に蒸散されることにより大気中に戻される。アマゾン原生動物の多くの故郷である保護生息地は未だ残っているだろう。
しかしある時点―ラブジョイ氏は20パーセント以上の熱帯雨林を伐採により失った時を想定し、サイクルは絶頂を迎え、それにより一連の退化が引き起こされ、それは大部分を占める保護森林にまで及ぶだろうとしている。
「絶滅の危機を深刻に受け止めるのであれば、これら全ての要因を調べ認識する必要がある。そしてそれは最後の一つがなくなってしまう前に何かをセーブするという事ではない」とラブジョイ氏は語る。「今まさに引き金となっているものに焦点を当てる時期にきている」
PNASで執筆している研究者は動物多様性の地球規模の喪失を”絶滅 “として捉えている。
これは筆頭著者であるジェラルド・セバロス(Gerardo Ceballos)氏と同僚研究者によって軽く投げかけられた言葉ではない。
「科学者として、我々は警告者にならないよう、また科学的に裏付けられない事を言わないように十分注意しなければならない」とメキシコ国立自治大学の生物学者であるセバロス氏は語る。しかしながら彼らが分析した結果は強力な言葉になり得るとした。
「自分たちが導き出したデータに基づいて、事態がいかに厳しい状況であるかを伝えないことは道義に反するだろう」とセバロス氏は付け加えた。同氏の研究チームは、世間でよく知られている177の脊椎動物を対象に詳しい調査も行った。対象としたすべての動物の生息地は、20世紀初頭から最小でも30パーセント減少している。それと同時期に40パーセントの動物が、80パーセントまたはそれ以上の生息地の喪失を経験している。
同研究チームの研究結果に関して、「間違いであってほしい」とセバロス氏は語った。
PNASのエッセイの中でラブジョイ氏は、「このような地球規模の問題には、例えば”人間の熱意が自然の中に組み入れられている”ハーフアースプロジェクトのような大胆な解決策が求められる」と述べている。
そのような努力も”ありそうにない夢物語”になってしまうかもしれないが、「何か着手できる方法があるはずだ」とラブジョイ氏は語った。
天候変化は機能している生態系を徐々に衰退させうる別の過程である。しかしながら、もし私たちが森林、湿地、これまで見捨ててきたその他の生息地を取り戻すような活動を始めれば、華氏0.5℃(摂氏0.9℃)の地球規模の気温上昇に置き替えることができるだろう。これは保護された地域から追加で炭素が排出されるためである。2015年パリ議定書での環境目標は、産業革命以前の平均気温と比較して摂氏2℃未満の気温上昇に抑える事である。
「(これらの地域を保存したいのであれば、)さらに多くの恩恵を得る必要がある。」
「生態系は再び正常に機能し、全ての(生態系)サービスを私たちに提供するだろう」
この回復活動は野生生物の生息地との重要なつながりを元通りに修復するだけではなく、人間もより質の良い水やきれいな空気のような(自然からの)恩恵を受けることができる。
「また興味深いことに、誰もがみな植林や湿地の回復活動に取り組むことができるのである」とラブジョイ氏は語る。「それはちょうど戦時中の家庭菜園(食糧不足を補うため野菜を植えた庭)と同様に、すべての人が実際に貢献でき、もはや解決できない問題には思えない」
「現代の若い世代が、(彼らの行動によって)自分たちの子孫だけではなく人類や地球上の生き物の未来への素晴らしい貢献ができるということに気づいてくれることを願っています」
バナー画像はタンザニアで撮影されたキリン(マサイキリン)写真提供:John C. Cannon
引用
- Ceballos, G., Ehrlich, P. R., & Dirzo, R. (2017). Biological annihilation via the ongoing sixth mass extinction signaled by vertebrate population losses and declines. Proceedings of the National Academy of Sciences, 114(30), E6089-E6096.
- Lovejoy, T. E. (2017). Extinction tsunami can be avoided. Proceedings of the National Academy of Sciences, 201711074.