- 最新の研究によると、アジアにおける都市化は、この大陸に生息するトラの生息数に影響を与えているようだ。
- 都市化の傾向が、移民、都市化、教育、経済に関する政策次第で、トラの生息数をさらに回復させる可能性がある。
- 研究者のチームが、アジア大陸についての5つの「社会経済経路」をモデル化したところ、持続可能な生活を採用した場合、トラの生息域内で生活する人は、今世紀末に約4000万人未満となる。
- しかし、もし各国が国際的な協力をせず、都市化の管理を怠れば、その数は1億6000万人まで膨らむ可能性がある。
アジア大陸にいるトラの生息数が回復するか、それとも歴史の中に消えてしまうのかは、私たちがこの地球上でどのように生きるかについての、私たちの決断にかかっているということを、最新の研究が示唆している。
「もし、私たちがトラや森、原自然がある地球が21世紀以降も存続することを望むなら、その保護活動は、貧困の緩和や女性への教育の強化、肉の消費の削減、持続可能な都市の構築について取り組む団体と協働して行う必要がある。」と、この研究の共著者であり、野生生物保護学会(WCS)のフィールド保護プログラムの副代表であるJoe Walston氏は述べている。
近年の、アジアにおける人口とトラの生息数に関する近似曲線は、真逆のトレンドを示している。1850年以降、アジアの人口は560%増の44億4000万人にまで膨らんだ。一方で、トラ(Panthera tigris)の生息数は、1990年初頭の100,000頭から急激に減って、現在は4000頭未満となり、IUCNの絶滅危惧種に指定されている。この2つの傾向は密接に関係してきた-現在においても-ということが分かり、Watson氏と彼の同僚たちは、私たちの社会に関する政策決定や居住する場所が、トラの保護に対してどのように影響するかについての解明に乗り出した。
この点に関して、歴史上、そして近い将来も含めて、特異な点は、アジアが人口転換の瀬戸際にあるということだ。つまり、貧困の減少や、教育水準の向上、都市への人口移動により、人々が生涯にもつ子どもの数が減っている。この結果、アジアの人口増加は横ばいとなっている。
「都市化と、それに続く人口転換は、間違いなく、保全の行く末を形成する最も重要な歴史的動向と言えるだろう。」と、この研究の筆頭著者でWCSのシニア・コンサベーション・エコロジストのEric Sanderson氏は語っている。
2018年4月、Sanderson氏と Walston氏は、世界的な都市への移住傾向が、保護のあり方を変える可能性があることを示した。彼らは、学術雑誌BioScience に掲載された論文の中で、保護活動は、種を失うという損失をせき止めることよりも、その回復に重点が置かれる可能性がある、と記載している。
しかし、学術雑誌Biological Conservationの3月号に掲載された最新の論文の研究者たちは、保護活動が成功するかどうかは、単純に、より多くの人口が都市へ移住かどうかに依存するわけではないことも理解している。
「人口動態の先行きや、社会経済的な要因とそれによって起こる結果は、予測することが困難であることが知られています。」と、ニューヨーク市バルーク大学の地理学者で、今回の研究の著者の一人であるBryan Jones氏は言う。「そのため、生物物理学的な予測も、同様に多くの不確かさを孕んでいます。」
「将来予測ができるかどうかは、土地利用と人口動態の動向に関して、私たちがどれだけ都市化を理解しているかということに、ある程度依存します。」と、Jones氏は付け加えた。
そこで、この研究チームは、移民、都市化、教育、経済についての政策の違いによって、この先起こり得るシナリオを提示する、5つの「社会経済経路」を使用した。この「社会経済経路」は、そもそも空気中の温室効果ガスレベルを予測するために開発されたもので、各国が持続的な技術やより効率的なエネルギーに投資した場合や、成長の度合いを高低で分けた場合、人類が化石燃料を世界のエネルギー源として使用し続けた場合などを想定している。
この研究の結果、持続的なシナリオを選択した場合、今後の82年間のうち、トラの生息域内で暮らす人の数は、2030年頃にピークを迎え、約6300万人になる。また、その後もこれらの「エコ」な政策をとり続けた場合、トラの生息域内で暮らす人の数は減り続け、2100年までには、2010年時の約30%減の4000万人未満となる。これによって、トラの生息数がさらに回復する余地が生まれ、また、都市におけるトラの保護を目的とした教育プログラムによって、都市の居住者がトラの生息数の回復を後押しする可能性がある。
化石燃料に依存したシナリオを選択した場合も、今世紀の終わりまでにトラの生息域内で暮らす人の数は4000万未満になり、より多くの人口が都市に住むようになる。しかし、持続可能性を重視しないのであれば、都市化は、スプロール減少という代償によってしか成り立たない。
これとは対照的に、各国が協力することをやめてしまい、自国の利益のみを考え、−これを「地域対立」シナリオという−、都市化への対策を怠った場合、2100年までの間に約1億600万人以上、つまり2010年時より85%も多い人口が、トラと居住域を共有しなければならない、と研究者たちは予測している。
これらの結果は、将来の予言となる代わりに、劇的な変化がアジアに広がる間に、何が起こり得るか(何が問題かには言及せず)を表している、と研究者たちは記述している。
「人口移転がどのように展開するかは、前もって分かるものではありません。」と、Sanderson氏は言う。「むしろ、それらは都市の管理や教育、経済改革、人や物の動きなどの重要な事項に関する政府や社会の政策決定に依存します。これらの政策は、私たちにとって重要ですが、トラにとっても同じです。」
トラップカメラで撮影されたトラのバナー画像は、TSFD WCS-India HyTiCoSの提供によるものです。
参考文献
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O’Neill, B. C., Kriegler, E., Riahi, K., Ebi, K. L., Hallegatte, S., Carter, T. R., … & van Vuuren, D. P. (2014). A new scenario framework for climate change research: the concept of shared socioeconomic pathways. Climatic Change, 122(3), 387-400.
Sanderson, E. W., Moy, J., Rose, C., Fisher, K., Jones, B., Balk, D., … & Walston, J. (2019). Implications of the shared socioeconomic pathways for tiger (Panthera tigris) conservation. Biological Conservation, 231, 13-23.
Sanderson, E. W., Walston, J., & Robinson, J. G. (2018). From Bottleneck to Breakthrough: Urbanization and the Future of Biodiversity Conservation. BioScience, 68(6), 412-426.