- バイオマス発電をカーボンニュートラルであるとする国連決議の抜け穴を利用し、日本と韓国はここ十年で木質ペレットの燃焼をエネルギー源とする政策に転換してきた。
- 日本では、近年、ライフサイクルを通じた温室効果ガス排出量の定量化を求める新たなルールを設けたが、これは既存のバイオマス発電34基には適用されない。日本政府によると、2030年までに温室効果ガスの排出を46%削減するという政府の目標を達成するために、バイオマス発電はますます重要な役割を果たすという。
- 韓国は、再生可能エネルギー利用割合基準制度にバイオマス発電を組み込んだことにより、現在では17基のバイオマス発電所が稼働中、少なくとも4基が建設中である。
- バイオマス発電ブームは最初ヨーロッパから始まったが、専門家によるとアジアでのバイオマス発電ブームは、温室効果ガス排出量を実際より少なく見積もり温暖化を進めるだけでなく、すでに影響を受けている森林にさらなるダメージを与えるという。
欧州連合と英国は、段階的な石炭燃料の使用廃止を規定した法律の義務に従うため、発電や熱利用のため議論を呼んでいる木質燃料の燃焼を増加させている。しかし、こうした行為のため煙突から出る二酸化炭素は排出量にカウントされず、まず間違いなく大気を汚染していると言える。
現在、地球の反対側の2大産業国でヨーロッパを追随する動きが見られる。しかし、これらはメディアにはほとんど報道されていない。
日本と韓国は、それぞれ世界第3位と第10位の産業国である。両国は、EUや英国がバイオマス発電を太陽光発電や風力発電と同じ再生可能エネルギーと見なして、バイオマス発電から排出された温室効果ガスをカーボンニュートラルとしてきたように、国連決議の抜け穴を利用して2021年から発電への木質燃料使用を大幅に増やしてきた。
少なくとも紙面上は排出量がパリ協定の排出目標に見合うようにするため、温室効果ガス排出量は実際の排出量よりも少なく見積つもられる結果となっている。日本、韓国の両国とも、2050年までにゼロカーボンを達成する目標を掲げている。これは、EU及び英国と同じ目標である。
高まる森林への負荷
東西問わず高まるバイオマス発電への依存は、木質ペレットの需要を急激に押し上げ、米国南東部、カナダ西部、そして東部ヨーロッパの原生林への負荷を高めている。専門家は、この需要により特にベトナムやマレーシア、インドネシアといった東南アジアでも同様の森林伐採が起きるだろうと述べている。
バイオマスの利用量を調査している活動家で構成される国際団体のEnvironmental Paper Networkによると、日本の木質ペレット需要は2017年の50万トンから2027年までに年間900万トンまで増加する。韓国では、2017年の240万トンから027年までに年間820万トンまで増加する。両国を合わせた需要は、EU及び英国で予測されている将来的な需要量に迫る勢いだ。
ソウルを活動拠点としているNGOのSolutions For Our Climate (SFOC)によると、韓国ではバイオマス発電開発に対する政府の補助はとても手厚いもので、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーへの投資を減らしているほどだという。
一方で、世界資源研究所のTim Searchinger氏は、「提示されている日本における木質ペレットの需要を賄うには、バージニア州のすべての森林を使い果たす必要がある」と、日本の環境活動家たちに対するプレゼンテーションの中で述べた。森林にとってさらに悪いことに、彼の研究によると「世界の一次エネルギーの2%を木材で賄おうとすると、商業的に地球上で植林された木々の2倍の量がひつようになる」ことを示している。Searchinger氏は、現在の需要増加予測に基づいてこの2%予測を立てている。
この動向は、むしろ各国の森林に負荷をかけないという信念からもたらされている。昨年11月、グラスゴーで開催された国連地球サミットにおいて、100か国以上が気候変動の根本的な緩和策として世界的に森林破壊を削減することに合意した。しかし、法的義務がないため、木質ペレット産業へ供給するための商業的な伐採を行う余地が多いに残されてしまっている。
グラスゴーにおける合意に対して、米国のNGO団体Wild HeritageのCyril Kormos氏は、「私たちは、年間何憶ヘクタールものかけがえのない原生林を伐採しながら、世界の森林を守るという約束などできるわけがない」という。
議論が噴出している行為と政策について
家庭やコミュニティーで暖をとったり料理に木材を使用したりするのは、人類が火を使うことを覚えた頃から世界中で行われている共通の行為だ。しかし、森林保護活動家たちは何年も前から、ほんの10年前は実質的に存在しなかった商業スケールでの発電のための木材の利用は、気候変動への対策の効果を損なわせると同時に環境へ多くの課題を突きつけていると言う。例えば、さらなる森林伐採や炭素排出量の増加、炭素貯蔵能力の低下、生態系への負の影響などがそれに当たる。
しかし、圧縮木質ペレットや木質ペレットの商業スケールでの燃焼は増加傾向にある。現在、世界随一の木質ペレットマーケットとなっているEUでは、2020年において3100万トンの木質ペレットを消費している。2018年の消費量である2900万トンから7%上昇している。Environmental Paper Networkの研究によると、発電及び熱利用のため、EUと英国は合わせて100基以上のバイオマス発電所を運用しているという。
億万長者となった木質ペレット業界は、ペレットの生産に廃棄物となった木材―木材廃棄物、枝、木の上部、害虫や病気で死んだ木―を使用していると主張している。しかし、森林保護活動家らは、この業界について詳細なモニタリングを行い、エンビバのような国際的なバイオマス会社は、少なくとも木質ペレット生産量の半量を、原生林や植林地から丸ごと一本の木を伐採したり区域内全域を伐採したりして賄っていることを示している。また、これらは温室効果ガス排出量の著しい過小評価につながっているだろう。
しかし、森林に再生能力があることから、政策立案者らはこれらを再生可能エネルギー源であると見なしている。事実、木質ペレットが商業スケールで生産されるようになった事の起こりは、1997年の京都プロトコルにまで遡る。その国連文書には、当時の科学的知見を基に、木質バイオマスは太陽光発電や風力発電と同様にゼロカーボンとなる「再生可能エネルギー」源であると規定されている。
当時のこの説は、その後たくさんの科学的報告書により反論されているものの、木材の燃焼によって排出された炭素は、現在生育中の森林や植林を行うことですぐに相殺されるとしていた。京都議定書は、木材の燃焼をカーボンニュートラルであるとし、木質ペレットの燃焼で出た排出量は各国の排出量にカウントしないことにより、森林保護活動家たちが言うところの計算上の抜け穴を作ってしまったのだ。
カーボンニュートラルは可能だが、長期間で見た場合にのみだけだ、と言うのはマサチューセッツ工科大学のバイオマス専門家、John Sterman氏である。彼は、今日木質ペレットの燃焼によって排出された炭素が再び新たな樹木に吸収されるには44~104年の年月が必要であると見積っている。これは、仮に植林がされて長期間生育することができ、森林火災や病気、虫によって無くならない場合に限った話だ。
しかし、そんな時間は我々に残されていないだろう。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、我々が今日予測している世界的気候危機の急激な悪化を防ぐためには、世界の産業国がこのたった8年以内に過去に例のないほどの炭素排出量削減を行う必要があると見積もっている。
2009年、Searchinger氏は、雑誌Scuebceの論評において、政策立案者らが炭素排出量の正確な算出方法を担保するであろうことを確信した上で、この計上ミスについて指摘している。しかし、EUと英国は2030年までに化石燃料使用を削減させなければならない法的義務があるため、京都議定書のカーボンニュートラルの定義に固執し、年間数百万もの補助金を出して石炭から商業規模での木質燃料利用への転換を図っている。
Searchinger氏は当誌に対し、「一度計上ミスが起こってしまえば、計上されなかった炭素はどこに行ってしまってもわからない」と述べた。「これが発電のために利用されるバイオマス燃料の真実です。一度計算ミスをしてしまうと、それがどんな悪さをするかはわからないものです。これらの国々は、カーボンニュートラルとしてバイオマスを燃焼できるクレジットを与えられているのです。それが問題なのです。」
さらに悪いことに、木質燃料は石炭よりもエネルギー密度が低いため、エネルギー単位で比較すると炭素密度の高い石炭よりも多くの炭素を排出してしまうという。
「石炭の代替としての木質燃料の利用増加は、煙突からの排出量を減らそうとしていて実際は排出量を増やしているのだ。」とオーストラリアのEnvironmental Paper Networkの所長であるPeg Putt氏は言う。「また、天然の森林から木質燃料を生産し燃焼させた場合、その森林では炭素貯蔵量が減少し、現在から2050年までの排出量削減をさせるのに重要な時期に炭素を貯蔵させる能力を損なさせてしまうことになるのです。」
津波がもたらした日本のバイオマス発電
「日本がバイオマス発電に興味を持ち始めたのは、ある一つの出来事がきっかけとなっている。2011年に発生した福島の原子力発電所の事故だ。」と述べるのは、東京にあるNGO、Mighty EarthのRoger Smith氏である。マグニチュード9.1の地震によって発生した津波は、福島原子力発電所のメルトダウンを引き起こし、エネルギー供給を賄うため輪番停電や化石燃料の消費に拍車をかけた。
当時、EUではバイオマス発電へ補助金を出す動きが勢いを増しており、木質ペレットと石炭を同時に燃焼させる、混焼と呼ばれる燃焼を行っていた。彼らの言い分によると、これによって徐々に炭素排出量を減らしているということだった。日本はこれに倣い、バイオマス発電を含む再生可能エネルギーへの補助金給付を2012年から開始した。バイオマス有機物資源は、農業廃棄物からトウモロコシや大豆から作られるバイオ燃料まで幅広いが、木質バイオマス(主に伐採された木から作られる木質ペレット)は森林保護活動家や気候変動活動家らにとって最も頭を悩ませるものである。
Smith氏によると、「日本政府は、バイオマス発電所を建設するのに必要なすべてのステップについてよく検討をしていない。」と言う。「例えば、長期にわたって燃料を補給しなければならない。気候変動を悪化させるのではなく緩和させるために排出量に係る政策を実施しなければならない。こうしたことは、2012年、何も実施されていない。」
福島の事故から5年後、日本政府は太陽光発電への投資を始めたが、同時に、石炭と輸入した木質ペレットやパーム椰子殻を混焼させる既存の火力発電所の利用も推し進めていた。過去数年にわたって、日本政府は混焼させることで、火力発電所で使用する石炭からの炭素排出量を置き換えるため、または減少させるため木質ペレットやパーム椰子殻の利用を進めてきた。
Smith氏によると、「日本政府や日本の企業が一旦何かを始めると、それに固執し続け、繰り返し改良を加えようとする傾向があります。」「そのため、公益事業や重工業は、原子力や石炭、天然ガス、石油を使用した集中型ベースロード発電所を使用するという現状にたくさんの資本を投入しています。これが、バイオマス発電が彼らにとって魅力的に映る理由です。」
しかし、日本のバイオマス発電に対する姿勢にわずかな変換があるという。Smith氏によると、日本の政策立案者は、かつて彼らが思い描いていたほどバイオマス発電が気候変動に対する解決策にはならないということについて議論の余地があるように感じるという。
また、先月には、将来のバイオマス発電拡張を制限する「ライフサイクル温室効果ガス排出量アセスメント基準」を導入した。しかしながら、これは少なくとも全国に34基ある50メガワット以上のバイオマス発電所には適用されない。
日本政府の視点
当誌は、4月に日本政府にインタビューを行い、現在課しているわずかな制限を残し、政府が木質ペレットの利用を深めようとしていることを確かめた。
経済産業省資源エネルギー庁の職員は、匿名を条件に、「太陽光発電や風力発電と違って、バイオマスは再生可能な資源で、天候に左右されず、安定して電力を供給できる。」と語った。
また、この職員は、「2030年までに46%温室効果ガスの排出を削減するという政府の目標を達成するために、バイオマス発電はますます重要になるだろう。日本政府は、バイオマス発電の燃料が持続可能に供給されることを望んでおり、そのため成長が早く10年サイクルでペレットを生産できるヒマラヤ杉や糸杉の国内での生産量を増やしたいと思っている。」と述べた。
加えて、この職員は、バイオマスのために植林された土地に再植林されるべきだと述べたが、科学者たちによると、成長する木々に炭素が取り込まれるまで数十年の時間が必要なため、気候変動にも些か影響が出るという。
2022年4月、日本政府はバイオマス持続可能性ワーキンググループの提言に従い、新たに承認されたバイオマス発電に対し、ライフサイクルを通じた温室効果ガス(GHG)排出量に関して2030年時点で70%減を適用する基準を設けた。
しかし、既存の34基については適用外となる。そのため、Smith氏によると、実際には現在使用されているバイオマス燃料の削減には明らかにつながらないという。さらに、「近年、新規に承認されたバイオマス発電所はほとんどない」と付け加えた。Smith氏は、日本には現在3基ほどしか計画段階のバイオマス発電所がないことを踏まえ、NGOの課題は既存のバイオマス発電所にこの新しいルールを適用させることだ、と言う。
すべての人が日本に広がるこのような考えを持っているわけではない。京都にある立命館大学の教授で、経済産業省(METI)のバイオマス持続可能性ワーキンググループのメンバーでもある橋本 征二氏は、バイオマスがカーボンニュートラルであるとされていることにとても懐疑的で、科学的研究の多くがバイオマスの燃焼で排出された炭素の「払戻し」には何十年もかかるという説に賛同している。
橋本教授は当誌に対し、「バイオマスがカーボンニュートラルでないというのは、単純にそれがバイオマスだからという理由です。炭素排出量を減らすには、バイオマスをカーボンニュートラルとなるよう、どのように利用するかを考えなければなりません。そうするためには、バイオマスにストックされた炭素を排出させないようにすることが重要で、可能であればストック量を増やすべきです。」と語った。
しかし、Smith氏によると、日本が木質ペレットの需要を満たしながら、同時に森林の炭素貯蔵能力を高めることができるという橋本教授の考えは現実的でないと考えている。
韓国のバイオマスの軌跡
2021年に韓国がバイオマスを取り入れたきっかけは津波ではなかった。産業界の大企業は単にEUや英国から学び、再生可能エネルギー利用割合基準制度に組み入れたのだ。ヨーロッパと同様に、バイオマスへの潤沢な補助金制度が実施されており、これを再生可能エネルギー供給証明書(RECs)と言う。
韓国のNGO、Solutions For Our Climate の前シニアリサーチャーのSoojin Kim氏によると、韓国の企業は電力の6%を再生可能エネルギーから得なければならない。RECsは市場で追跡ができるので、基準を満たすか取引をするか、企業は選択することができる。
「バイオマスは、再生可能エネルギー利用割合基準制度に組み込まれているので、注目の的になっている」とKim氏は言う。このため、「特に石炭燃焼型の発電所にとっては、新たに他の再生可能エネルギー源に投資することなく、既存の施設でバイオマスを燃焼させることができる。」
Environmental Paper Networkによると、現在韓国では、17基のバイオマス発電所が稼働中で、そのうちいくつかは石炭との混焼である。加えて、3基が建設中、1基が計画段階にあるという。Solutions For Our Climateの報告によると、韓国における1時間のバイオマス発電量は、2012 (106,000 MWh)から2018 (649万MWh)までの間に61倍増加した。この期間の後半に、韓国は340万トンの木質ペレットを輸入している。これより多く輸入しているのは英国とデンマークだけである。
Kim氏と共著で書かれた本報告には、「バイオマスは韓国の再生可能エネルギーセクターを脅かし、温室効果ガスを削減する世界の取り組みを台無しにしている。」と書かれている。
韓国政府はコメントを出すことを拒否した。Kim氏が言うところによると、政府の科学者は若い木々は古い木々よりも多くの炭素を吸収することができる。そのため、古い木々を伐採することは気候緩和戦略にとって望ましいことである、と述べたという。
この主張は、木々は古く大きいほど、炭素を捉えて貯蔵する能力が高いとする、長年森林生態学者が唱えてきたことと正反対の主張である。古い木々が燃焼される度に、それまで何十年、ときには何世紀もの間蓄えてきた炭素が大気に放出されるのだ。
2021年にグラスゴーで開催された国連機構サミットの一週間前、日本及び韓国の12のNGOが、日本の首相及び韓国の大統領宛てに共同でレターを作成した。彼らは、増加するバイオマスの利用と補助金給付に対し非難をする内容だ。彼らは、木々を燃焼させることがカーボンニュートラルであるという、広く認識されているが科学的に疑わしいとする科学的な知識を簡単にまとめ、世界的気候危機を悪化させるバイオマス政策について批判を行った。
彼らは政府に対し、世界の森林を守るための政策の修正や、再生可能エネルギー近い将来での排出量を減少させること、既に行われているバイオマスの燃焼が持続可能なものとなるよう透明性のある法令を整備することを求めている。
彼らは政府に対し、世界の森林を守るための政策の修正や、再生可能エネルギー近い将来での排出量を減少させること、既に行われているバイオマスの燃焼が持続可能なものとなるよう透明性のある法令を整備することを求めている。
バナーイメージ: ノルウェーのTofteで燃焼されることになる木材。画像は、Flickr (CC BY-NC-ND 2.0)のStatkraftから。
Justin Catanoso: 米国、ウェイクフォレスト大学教授。彼のTwitter アカウントは、@jcatanoso。Annelise Giseburtは、日本からのレポートを行った。
引用:
Sterman, J. D., Siegel, L., & Rooney-Varga, J. N. (2018). Does replacing coal with wood lower CO2 emissions? Dynamic lifecycle analysis of wood bioenergy. Environmental Research Letters, 13(1), 015007. doi:10.1088/1748-9326/aaa512
Searchinger, T. D., Hamburg, S. P., Melillo, J., Chameides, W., Havlik, P., Kammen, D. M., … David Tilman, G. (2009). Fixing a critical climate accounting error. Science, 326(5952), 527-528. doi:10.1126/science.1178797
Schlesinger, W. H. (2018). Are wood pellets a green fuel? Science, 359(6382), 1328-1329. doi:10.1126/science.aat2305
Mildrexler, D. J., Berner, L. T., Law, B. E., Birdsey, R. A., & Moomaw, W. R. (2020). Large trees dominate carbon storage in forests east of the Cascade Crest in the United States Pacific Northwest. Frontiers in Forests and Global Change, 3. doi:10.3389/ffgc.2020.594274